海洋生物の調査研究
世界有数の生物多様性を誇る琉球列島の生物相だが、その全容はいまだ解明されておらず、近年でも新種や日本初記録などの報告が相次いでいる。一方で、琉球列島の自然環境は急速に変化しており、生物相を簡便に把握する技術開発が求められている。当事業では、琉球列島の海洋生物相の記録・解明に寄与するため、以下の取り組みを実施した。
なお、これら一連の調査研究により、平成31年度は7報の学術論文が受理された。
当財団では琉球列島産海洋生物の標本を収集し、自然史研究の発展や教育・普及活動に活用している。
平成31年度には約6,000点の標本を新規登録した。その中には琉球大学の立原教授が長年の研究活動の一環として収集した琉球列島河川産魚類標本が多数含まれており、失われつつある沖縄の河川環境を後世に伝える貴重な標本群が得られた。
また、美ら海プラザには学術的にも貴重なホホジロザメの全身液浸標本を展示した。本種は映画「ジョーズ」のモデルにもなった有名な危険ザメであり、本物の迫力が人気を集めている(写真-1)。その他にも、水族館の企画展「サメ-進化のふしぎ-展」への展示標本を提供、沖縄県立博物館・美術館で実施した「サメの解剖教室」など、普及・教育活動にも貢献した。
沖縄美ら海水族館は展示生物の多くを飼育スタッフ自ら採集しており、その過程で学術的に貴重な海洋生物標本を入手する機会も多い。
平成31年度には水族館が所有する無人潜水艇(ROV)が水深214mの深海より採集したハゼの仲間が、これまで日本からは見つかっていなかったLarsonella pumilusであることが確認された。本種は体全体が黄色いことから、黄色い花を咲かせる沖縄の代表的な植物ユウナ(オオハマボウ)にちなみ「ユウナハゼ」と名付けられた。ほかにも、与那国島沖で採集され沖縄県初記録となった「キオビイズハナダイ」や、新種「チュラシマハナダイ」の発見に貢献するなど、沖縄の魚類相解明につながる発見が相次いだ。キオビイズハナダイおよびチュラシマハナダイ(写真-2)は現在沖縄美ら海水族館にて飼育・展示されている。
近年、青色の光をあてると「蛍光」する魚が発見され、注目を集めている。当財団でも複数種の蛍光する魚を確認し、その生態学的機能についての調査研究を開始した。特筆すべきものとしては、近縁種間で蛍光パターンの異なるアカタマガシラの仲間や、雌雄で光り方が異なる「エソダマシ」(写真-3)などがあげられる。一部の魚は蛍光をコミュニケーション手段として利用している可能性があり、その解明は彼らの生態を理解するうえで重要な意味をもつと考えている。また、今年度は沖縄美ら海水族館が開催した「ナイトアクアリウム」にて蛍光する魚を集めた水槽を出展した。今までにない新しい展示手法として、今後さらに発展させていきたい。
当財団では琉球列島の魚類相を把握するための各種調査を実施している。最も身近なところでは沖縄美ら海水族館のある備瀬地区のリーフ内で採集調査を実施しており、沿岸性魚類を中心に350種ほどが確認されている。この調査結果は後述する環境DNAを用いた魚類相調査との比較にも活用されている。
やや外洋の魚類相を把握するために、国頭漁協および読谷漁協の定置網漁獲物を調査させていただいている。現在までに177種が確認されており、出現の季節性などを解析して水族館の展示生物入手に活用する予定である。また、水族館が実施する展示生物採集に同行し、調査を行うこともある。平成31年度は久米島、南大東島、西表島の採集に同行し、学術的観点から採集物を評価した(写真-4)。
任意に採水した環境水中に存在するDNAの塩基配列情報から、同環境に生息する魚類を特定する革新的技術を開発するため、千葉県立博物館等と共同研究を行っている。
今年度は、新たに並列濾過システム(写真-5)を独自開発し、分析の初期処理の効率を大幅に向上させた。また、地元のサンゴ礁池において同システムを用いた調査を行い、わずか1時間程度の現地調査で収集した水サンプルから約300種の魚類を検出した。この数は既往の環境DNA研究における検出数を大きく凌いでいた。
継続的な調査・収集活動の実施、およびそれらに伴う新知見や学術的な成果が集積されつつあり、今後の発表が期待される。また豊富な標本や知見を元に企画展を計画・開催する事も今後重要な活動となると判断される。魚類の生物発光についての展示・研究は当水族館の特徴を生かした科学的にも貴重な発見と判断される。(吉野顧問:元琉球大学准教授)
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