1. 2)ウミガメに関する調査研究
沖縄美ら島財団総合研究所

海洋生物の調査研究

2)ウミガメに関する調査研究

笹井隆秀*1・河津 勲*1

1. はじめに

世界中の海洋に広く分布するウミガメ類の生息数は、自然環境の悪化等により近年著しく減少しているとされ、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストにも全種が掲載されている。ウミガメ類の保全のためには、その個体群の動態や生態を把握するとともに、飼育下において繁殖や生態に関する知見を集積する必要がある。本事業ではこれらの問題に対応するため、以下の取り組みを実施し、今年度の研究成果として、5編の学術論文に掲載された。

2.産卵調査

当財団は沖縄島において、日本ウミガメ協議会および調査ボランティアと連携し、産卵状況の把握に努めている。その中で当財団は沖縄県の北西部に位置する本部半島(本部町、今帰仁村、名護市)等での調査を担っている。平成31年度の本部半島では、アカウミガメおよびアオウミガメの産卵が、各々34回および9回確認され、タイマイの産卵は確認されなかった。なお、近年の沖縄島全体におけるタイマイの産卵状況については、三学会合同長崎大会2019で発表を行った。また、平成30年1月5日、沖縄島国頭村においてアカウミガメによる産卵が確認された。この季節はずれの産卵結果は、うみがめニュースレター108号に掲載された。

3.漂着調査

写真-1 ウミガメの産卵痕跡調査
写真-1 ウミガメの産卵痕跡調査

写真-2 死亡漂着調査
写真-2 死亡漂着調査

当財団は沖縄県一般からの情報を元に、海岸に死亡漂着するウミガメ類の調査を行っている。本調査では現場に出向き、種の同定、解剖および計測などを行った。平成31年度にはアカウミガメ、アオウミガメおよびタイマイ、計63例の死亡漂着を確認した。
死亡漂着調査約30年分のデータより、野外においてウミガメ類が人工物をどの程度誤飲しているのかを調査し、第30回日本ウミガメ会議で発表した。
平成28年3月12日、沖縄島本部半島と伊江島の間の海域において、背甲後部を受傷したアカウミガメが発見された。また、平成27年8月29日、沖縄島の国頭村でアカウミガメ孵化幼体のロードキルが確認された。これらの記録はうみがめニュースレター108号に掲載された。

4.回遊調査

写真-3 タイマイの標識放流の様子
写真-3 タイマイの標識放流の様子

今年度も例年同様に飼育下で繁殖し、1年飼育した189個体のアカウミガメ、アオウミガメおよびタイマイの標識放流調査を、ヘッドスターティング調査(死亡率の高い時期を飼育下で育て、成長後に放流し、生存率向上を図る考え方)と兼ねて行った。

5.飼育下における調査

写真-4 2回目の飼育下繁殖に成功したクロウミガメ
写真-4 2回目の飼育下繁殖に成功したクロウミガメ

当財団は沖縄美ら海水族館の管理運営を行っており、ウミガメ館において保全に寄与することを目的に飼育研究を行っている。
平成31年度のウミガメ館ではアカウミガメ、アオウミガメ、クロウミガメおよびタイマイの産卵が確認された。これらのうち、タイマイについては、2個体目の飼育下3世代目の繁殖成功となり、得られた結果を第30回日本ウミガメ会議で発表した。クロウミガメについても、平成29年度に続く2回目の飼育下繁殖に成功し、雌のクロウミガメの卵形成に要する日数などのデータを得ることができた。平成6年以来、蓄積したウミガメ4種の繁殖データ(産卵回数、産卵巣、脱出率など)について整理し、その結果は第10回世界水族館会議2018のプロシーディングスに掲載された。
アカウミガメの脱出率についての、野外、野外からの緊急収容、飼育下繁殖の産卵巣での比較から、ウミガメ館の産卵場は卵の緊急収容場所として適正であるとことが明らかになった。また、飼育下の脱出率向上に必要な条件を整理し、その結果はうみがめニュースレター108号に掲載された。
タイマイの人工授精技術や精液保存技術の開発にも取り組んでおり、精子の希釈に最適な希釈液の選定や,卵胞発達期の確認などを行った。
アカウミガメにおいては、孵卵温度の日内変動が幼体の形態、運動能力等に影響を与える可能性が示唆されているが、アオウミガメやタイマイではわかっていない。そこで、ウミガメ類の適正な人工ふ化技術の開発に向けて、飼育下で得られたアオウミガメおよびタイマイの卵を用い、孵卵温度や孵化幼体の行動活性に関する共同研究を高知大学と開始した。その結果、砂内温度変動がアオウミガメやタイマイの孵化率等に影響する可能性について示唆され、得られた結果は日本爬虫両棲類学会第58回大会や第30回日本ウミガメ会議で公表した。

6.健康管理に関する調査

写真-5 緊急保護個体の組織検査サンプル採取の様子
写真-5 緊急保護個体の組織検査サンプル採取の様子

沖縄島で衰弱したウミガメ類が漂着した際、当財団ではこれらウミガメの緊急保護を行い、治療にあたっている。今年度は5個体のウミガメ類が緊急保護され、回復した1個体を放流した。
また、飼育下のアカウミガメ幼体においては、心血管性吸虫類の感染が重大な死亡原因になる。この寄生虫感染を診断するため血液生化学値を取りまとめ、第30回日本ウミガメ会議で発表した。

7.外部評価委員会コメント

今年度の成果も含めこれまでの研究は高く評価する。ただ、そろそろ新しい視点からの研究テーマの構築が望ましい。(亀崎顧問:岡山理科大教授)


*1動物研究室

ページトップ