亜熱帯性植物の調査研究
国営沖縄記念公園海洋博覧会地区(海洋博公園)では、風倒木が毎年発生しており、その原因の一つとして、南根腐病罹病根の腐朽の進行による根系の支持力低下の可能性が挙げられる。本病は、担子胞子による感染と、根系接触部での隣接木への菌糸感染が知られている。これに加え、本園では、従来より南根腐病罹病木も含めた伐採枝幹がチップ化され、園内広域の表土に撒布されてきたため、罹病木由来のチップ材から接触する植栽木および自生木へと菌糸が伸長し、感染が各所で発生した可能性も疑われる。
そこで、本研究では、海洋博公園全域において、南根腐病の罹病状況を明らかにし、罹病木から分離された病原菌シマサルノコシカケ(Phellinus noxius)の遺伝子型をマイクロサテライト(SSR)解析により調査して、南根腐病の感染経路を推定した。尚、詳細は令和元年11月に東京で行われた樹木医学会で発表済みである。
平成30年9月~平成31年2月に、海洋博公園の植栽木および自生木から任意に選んだ296本(風倒木15本を含む)を対象として、可視病徴あるいは被害木から分離した菌株の培地上での形態的特徴等から南根腐病の罹病の有無を調べた。
罹病木から分離された病原菌13株を液体培地で培養し、菌糸からDNA抽出キット (Qiagen社製 DNeasy Plant Mini Kit)を用いてDNAを抽出した。Akiba et al. (2015)が開発したプライマー対を用いて、 20遺伝子座のSSR領域をPCR反応で増幅した。そのうち、増幅が悪かった1遺伝子座を除いた19遺伝子座の各PCR産物のサイズをgenetic analyzer(シークエンサー)を用いて決定した。また、ソフトRとパッケージpopprを用いて、データからそれぞれの菌株間のProvestiiの遺伝距離を求め、遺伝距離から近隣結合法による系統樹を作製した。
南根腐病の罹病木を計13本(5樹種:ガジュマル6本、アコウ3本、モクマオウ2本、キワタノキ1本、Ficus sp.1本)確認した。そのうちキワタノキBombax ceibaは本病の宿主として台湾で報告されているが (Chang and Yang 1998)、日本においては初報告である。
隣接・近接する感染木2組以外の菌株は全て遺伝子型が異なっており、罹病木ごとに別ジェネットの病原菌が感染していたことが確認された。この結果から、胞子感染の可能性 (図-2a)、過去の罹病木由来のチップ材から一次あるいは二次感染した罹病木が過去に存在しており、それが感染源となった可能性 (図-2b)、別々の罹病木由来のチップ材が各所に撒布され、それにより菌糸感染が発生した可能性 (図-2c)が考えられる。現在、予防原則上、本公園では罹病木についてはチップ化・撒布を禁止しており、焼却など処分方法について検討を進めている。
対象植物の成長過程を十分に把握し、成長段階に適応した管理を行うことで、健全な樹木育成が図れる。緑豊かな空間の提供をするためには、地域住民の参画と支援が必要であり、適正な維持管理組織の運営までを見据え、この活動が継続されることに期待する(輿水顧問:(公財)都市緑化機構 理事長)。
*1植物研究室・*2森林総合研究所・*3琉球大学農学部
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