琉球文化の調査研究
安里成哉*1・勝連晶子*1
当財団では、首里城公園の魅力、満足度向上及び県内外、国外に散逸する首里城関連資料の保存を目的に資料収集を行っている。平成30年度は古典籍1件の資料収集を行った。
また過年度に収集した資料の中から劣化の激しい絵画資料1件の修繕を行った。
当財団では、首里城公園や財団受託施設等の展示運営に資するため、首里城基金を活用して、琉球王国崩壊から去る大戦までの社会的な変動などによって散逸した琉球関係資料、文化財の収集を行っている。
平成30年度も資料の所在情報を収集・調査し、収集候補の資料について検討を行った。平成30年7月に古典籍分野の委員会を実施、意見聴取した内容をもとに、『質問本草』※2 全5冊(薩摩府学蔵版)を収集した。
『質問本草』は江戸時代(琉球王国時代)に著された本草学の書物である。第8代薩摩藩主(島津氏第25代当主)・島津重豪(1745~1833)の命によって編纂が始まり、天明5(1785)年に彩色写本(鈔本=手書きの本)が一旦完成した(以下、「天明本」とする)。その後、改訂を経て天保8(1837)年に内編四巻、外編四巻、附録一巻が木版で刊行された(以下、「天保本」)。以上のように『質問本草』は、天明本と天保本の2種類に大別されるが、今回収集した資料は、天保本の彩色本である。彩色本は数が少なく、沖縄県内の他機関では所蔵が確認されないため、貴重であるといえる。
同資料は、薩摩および南西諸島に産する160種類の植物について、植物図とともに名称・産地・生態・薬効等の解説が記載されている。この編纂に際して、鎖国体制下にあった薩摩から直接、中国の本草学者や医師に質問を行うこと、鑑定を依頼することが困難であったため、薩摩は琉球側に命じて、中国に滞在する琉球人に調査に当たらせたという。さらに、長崎来航のオランダ人や中国人、薩摩に漂着した中国人へ質問した回答も含まれる(高津孝「解説 『質問本草』と『本草質問』」〔原田禹雄訳注『訳注 質問本草』榕樹書林、2002年所収〕参照)。
附録には、琉球や南西諸島の植物、例えばレイシやデイゴ、ビロウ、イリオモテランなどが収められている。
今回収集した資料は、差し色もよく残っており、王国時代に薩摩や琉球においてみられた植物を紹介する展示への活用が期待できる。また、前近代の薬種や医学、博物学、書誌学や当時使用された色材の分析等、さまざまな分野における展示や調査研究に役立つ資料である。
平成30年度は絵画「孫億筆花鳥図」の修繕を行った。本資料は三幅対の3つ目の花鳥図で、絹帛に牡丹や木蓮などの花が極彩色で描かれている。
孫億は清代の中国・福建の絵師で、石嶺伝莫(琥自謙)や山口(神谷)宗季(呉師虔)ら琉球人絵師に影響を与えた人物である。
経年劣化により本紙に破れや折れ、表装に欠失が生じていため、京都府の有限会社墨仙堂に依頼し、修繕を行った。
今回の修繕で、本紙の折れを補強する「折れ伏せ紙」や欠失した箇所を補う「補修絹」が見られたことから、過去に修繕をした痕跡が確認できた。
また、1幅目、2幅目同様に葉に裏彩色が確認できたが、3幅目が一番絵具の残りが少なかった。
修繕した資料を展示し広く普及する。また調査成果を活かした複製製作を行い、書院・鎖之間等で展示することにより首里城の往時の空間を再現し、公園の管理運営に寄与する。
今後とも積極的に取り組むべきである(高良顧問:琉球大学名誉教授)。
*1琉球文化財研究室
付記
*2「2.資料収集について」で紹介した「質問本草」は、本稿脱稿後の令和元年10月31日の首里城火災により、現存が確認できておらず、焼失した可能性が高い(同年12月現在)。
今後、財団では同様の資料を再収集するため、調査を継続していく予定である。
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