1. 普及開発課
沖縄美ら島財団総合研究所

普及啓発の取り組み

普及開発課

泉千尋*1

1. はじめに

普及開発課においては、当財団が実施している亜熱帯性動植物・海洋文化等に関する調査研究の成果や公園管理で培った技術等を活用し、沖縄の自然や文化等に関する知識の普及啓発を実施している。
主な事業としては、教室や講習会の実施や、助成事業、人材育成事業、環境保全活動支援事業等である。また、普及啓発事業に加え海洋文化に関する調査研究事業も実施している。平成30年度の事業の概要は以下のとおりである。

2.実施体制

普及開発課の体制は正職員6名、契約職1名、事務補助3名、また、美ら島自然学校では飼育及び事務補助計2名が従事している。

3.実施内容

1)亜熱帯性動植物、海洋文化に関する知識の普及啓発

亜熱帯性動植物及び海洋文化に関する知識の普及啓発事業としては、親子、一般を対象とした教室、講演・講習会を開催した。主に親子を対象として、海の生物について学ぶ「美ら海自然教室」を4回、植物や陸の生物について学ぶ「美ら島自然教室」を2回、植物素材等自然発生物や廃棄物等を利用した工作を通し沖縄の生き物や自然環境を学ぶ「美ら島・美ら海こども工作室」を10回開催した。また、美ら島自然学校において主に小中学生を対象とした有孔虫やウミガメ、海岸の漂着物等について学ぶ教室を11回開催した。
一般を対象とした事業としては、サンゴ礁自然誌講座や研究室による講演、「海洋文化講座」等を計22回実施した。
専門家向けとして実施した事業としては、第13回目となる「サンゴシンポジウム」を「サンゴ礁保全シンポジウム」と改めて開催したほか、造礁サンゴの同定スキルを獲得するための「サンゴワークショップ」を実施した。

2)学校連携事業

地域の教育委員会、小学校と連携し、学校のカリキュラムとしての学習を行う通年学習プログラムと、学校からの依頼をうけ単元や総合的な学習の時間における1回完結型の学習プログラム(出前授業)を実施した。通年プログラムとしては、名護市の緑風学園において「ウミガメ」「川の環境」「海の生物」等を題材としたプログラムを5学年で計32回提供したほか、名護小学校等において3校計12回実施した。1回完結型のプログラムについては、19校計22件(前年度は20校)を単元授業や修学旅行の学習等において実施した。

3)寄附講座

沖縄美ら島財団の事業内容を活かした講義を開設し県内の大学へ提供し、沖縄県における高等教育を支援することを目的として、名桜大学(名護市)、新規に琉球大学(西原町)において、寄附講座(全15回)を開講した。財団職員が講師として、大規模公園や水族館等の管理運営など財団の事業や亜熱帯性動植物に関する調査研究、首里城等に関する調査研究について講義を行った。受講者は名桜大学が117名、琉球大学が114名であった。

4)助成事業

総合研究センターにおける調査研究項目である亜熱帯性動植物や沖縄の歴史文化に関する調査研究・技術開発、普及啓発活動に対して助成金による助成を行った。応募総数38件の中から、亜熱帯性動物に関する調査研究3件、亜熱帯性植物に関する調査研究1件、沖縄の歴史文化に関する調査研究に1件に助成を決定した。

5)人材育成事業

沖縄の将来を担う人材を育成することを目的に、県内の新聞社が主催、実施する事業に対し共催として参画した。
沖縄タイムス社が主催する「沖縄こども環境調査隊」については、小中学生計8人が隊員として選ばれ、事前学習会や現地視察を通して環境問題について学んだ。今年度は奄美大島と沖縄本島やんばる地域の2か所を調査地とし、奄美こども環境調査隊とともに活動を行った。
琉球新報社が主催する「新報サイエンスクラブ」については49件の応募があり、小学生29件、中学生5件の調査研究に対し助成を行うとともに、調査研究を支援するフォローアップを行った。

6)環境保全支援活動事業

沖縄県北部地域並びに離島での海岸清掃や赤土流出対策等の環境保全活動を支援することを目的に、エコクーポン(沖縄美ら海水族館入館券)を提供する事業を実施した。2時間以上の海岸清掃活動や、赤土流出防止を目的とした植物の植え付け等の環境保全活動を対象としている。
平成30年度は15団体17件に対し、1,084枚のエコクーポンを発行した(前年度25団体2,165枚 対前年度比50%)。利用者減少の理由は、水族館の管理体制移行に伴う、配布期間の縮小のためである。

7)講師派遣

総合研究センターの調査研究成果を活用し、知識の普及啓発を図るため、学校や市町村等外部からの依頼により職員を講師として派遣した。平成30年度は、49件の講師派遣を行った。

8)美ら島自然学校の管理運営

名護市嘉陽小学校の跡地利用事業者として平成27年7月より「美ら島自然学校」の管理運営を実施している。平成30年度は各種プログラムの実施、ウミガメ飼育施設で約100個体のウミガメ幼体の飼育、バーベキュー施設の運用を行った。
平成30年度の施設利用者数は、7,405名(前年度7,217名 対前年度比102.6%)であった。各種教室等プログラムの利用者数は3,364名(対前年度比 108%)で増加した。

9)海洋文化に関する調査研究・知識の普及啓発

琉球文化財研究室並びに地域と連携し、南西諸島の海にまつわる民俗に関する調査研究を実施した。平成30年度は引き続き船漕ぎ儀礼の現況・変容についての調査及び海にまつわる民俗に関する基礎的情報の集積を行った。成果の還元として、調査結果を各地域へ提供した。前年度に引き続き、海洋文化館収蔵品に関するデータベースの確認及び更新、収蔵品を良好な状態で管理するために収蔵資料の劣化状況を調査した。
また、海洋文化館における誘客促進や普及啓発事業に活用することを目的に、新規に「海洋文化講座」を開始し、館内で展示・収蔵されている太平洋や沖縄の島々の海洋文化に関する資料の特徴や展示の見どころを掘り下げたガイドツアー、海洋文化にちなんだ工作教室を計12回行った。

4.外部評価委員会・事業活動調整会議

1)外部評価委員会

実施日:平成31年1月11日(金)
委員:池田孝之(座長・琉球大学名誉教授)
亀崎直樹(岡山理科大学生物地球学部生物地球学科教授)
後藤 明(南山大学教授)

委員会では、大学寄附講座受講者に社会人を含めることも検討するよう指摘があった。委員会での指摘を受け、次年度の名桜大学の寄附講座にて、社会人の受入れを予定している。

2)事業活動調整会議

実施日:平成31年1月12日(土)
参 加:研究顧問13名(氏名略)

委員会では、講演会等参加者の人数だけでなく、その属性、アンケートの結果なども網羅した報告の必要性が指摘された。次年度以降、各事業終了後のアンケート結果を踏まえた報告を行う予定。

5.今後の課題

普及啓発事業のプログラムは、美ら島自然学校(H27開校)の運用、学校連携事業(H26開始)等により事業数が増加傾向にあった。今年度は事業総数の見直しを図り、前年度比減となった。
一方、財団が行う調査研究事業・普及啓発事業に対する認知度が向上するとともに外部からの依頼も増加傾向にあるが、実施方法については検討が必要である。平成30年度は、各実施事業のうち、内容が確立した学習プログラムのテキスト化を進めた。今後、印刷物の製作を推進し、完成したテキストを広く共有することで学習プログラムおよびノウハウを提供し、新たな指導者の育成事業に繋げる。また、継続して普及啓発事業の手法や効果について調査を行い、学術的に検討する。

  • 図-1 普及開発課(普及啓発系)の事業と今後の展開
    図-1 普及開発課(普及啓発系)の事業と今後の展開
  • 図-2 美ら島自然学校の目的と事業(課題)
    図-2 美ら島自然学校の目的と事業(課題)

*普及開発課

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