1. 3)魚類等の生物多様性に関する調査研究
沖縄美ら島財団総合研究所

海洋生物の調査研究

3)魚類等の生物多様性に関する調査研究

岡 慎一郎*1・宮本 圭*1

1. はじめに

琉球列島は魚種多様性が極めて高く、新種や日本初記録などの報告も相次いでおり、分類学的に未整理なものも多い。一方で、陸水域などの特殊な生息環境においても独特の生物相が形成されており、希少種なども多く含まれる。当事業では、琉球列島の魚類等の保全や自然史研究の発展に寄与するため、以下の取り組みを実施した。
なお、これら一連の調査研究により、平成30年度は9報の学術論文が受理された。

2.海洋生物標本の収集および活用

当財団では琉球列島の海洋生物標本の収集・管理を通し、学術研究や普及・教育活動に役立てている。
平成30年度には約380点の標本を新規登録し、その中には新称「カタグロウミヘビ(写真-1)」などの日本初記録の魚類も含まれた。所蔵標本の学術利用として、外部研究機関からの標本の貸出依頼11件、来訪による標本調査3件に対応した。また、これまでに貸出等で利用された標本が利用された研究論文が18報発表された。
また、沖縄美ら海水族館のサメ博士の部屋では、学術的にも貴重な「ホホジロザメ胎仔」を展示したほか、海洋文化館には「タイヘイヨウアカボウモドキ骨格」を展示するなど、普及・教育活動にも貢献した(写真-2)。

  • 写真-1 日本初記録種「カワウミヘビ」
    写真-1 日本初記録種「カタグロウミヘビ」
    沖縄美ら海水族館では国内初となる生体展示も行った
  • 写真-2 「ホホジロザメ胎仔」の展示
    写真-2 「ホホジロザメ胎仔」の展示

3.希少種の保護に関する調査

写真-3 ミナミメダカ琉球型。
写真-3 ミナミメダカ琉球型。
多くの自然が残されたやんばる地区においてもほとんど
確認できなくなっており、絶滅の危機にある

海洋博公園内に生息する希少種であり陸棲最大の甲殻類でもあるヤシガニの生態モニタリング調査を平成18年度から継続している。平成30年度は、昨年度から導入した人工知能による個体識別システムの精度向上のためのプログラム調整などを実施した。また、カリフォルニア大学デービス校(米国)の研究室とともに、ヤシガニの色彩の多様性に関する共同研究も開始した。
これらのほか、絶滅の危機にある淡水魚の生息域外保全を目的として、遺伝子解析より在来個体群と判断されたフナを海洋博公園内の池に放流し、再生産が確認された。また、固有の遺伝集団であるミナミメダカ琉球型を飼育下で増殖し、それらを小学校の教材として配布するとともに、生息の危機的状況やその要因について普及啓発する活動も開始した。

4.環境DNA調査

左:組み上げ施設 右:濾過の状況
写真-4 久米島の海洋深層水くみ上げ水を分析することで、
船に乗ることなく100種余りの深海魚が検出できた。
(左:組み上げ施設 右:濾過の状況)

任意に採水した環境水中に存在するDNAの塩基配列情報から、同環境に生息する魚類を特定する革新的技術を開発するため、千葉県立博物館等と共同研究を行っている。
平成30年度は、昨年度に引き続き久米島の海洋深層水研究所の汲み上げ水の環境DNA調査を実施した。分析の結果、現在のところ100種以上の深海魚の存在が確認できている。実際の調査でこの種数を確認するとなると膨大なコストが必要であり、非常に効率的な調査手法であることが示された。また、南西諸島の魚類分布の連続性と黒潮との関係を明らかにすることを目的として、魚類相の調査がほとんどなされていないトカラ列島での調査も開始した。

5.外来種対策

沖縄の陸水環境では多数の外来種が在来種の生存を圧迫している。平成28年から海洋博公園内の人工池に生息する外来魚ティラピアを、直接的な捕獲と不妊オスによる繁殖阻害によって減じるための実証試験を行っている。不妊化オスは当財団が確立した技術により遺伝子操作や化学処理をすることなく生産し(写真-5)、これらを放流することで正常な雌と交配させることにより、生息数を減らし、最終的に根絶できるといった仮説に基づいて実施している。しかし、平成30年度の結果では、オス大半が不妊の状況下でも、生まれてくる稚魚の数を十分に減らせないことが明らかとなった。来年度以降はその要因について追及し、解決方法を模索する予定である。

また、1990年代より名護市で増殖を続けている外来毒蛇タイワンハブ(特定外来生物:写真-6)の駆除の技術開発も開始した。ハブ類の捕獲には一般的に餌入りトラップが用いられるが、マウスをエサとする動物倫理的側面や従事者の負担軽減を目的として、匂いと熱源でハブを誘引する無生物トラップの開発も開始した。現在は独自開発した試行型を野外に設置し、その効果を検証している。今後効果が認められた場合は、電力効率化や通信機能を搭載するなどのIOT化を進める予定である。

 

  • 写真-5 放流した不妊オスにはリボンタグを付しており、陸上からも容易に識別できる
    写真-5 放流した不妊オスにはリボンタグを付しており、陸上からも容易に識別できる
  • 写真-6 タイワンハブ。全長1.2mほどと在来のハブよりも小さいが、攻撃性と毒性は強いと言われている。
    写真-6 タイワンハブ。全長1.2mほどと在来のハブよりも小さいが、攻撃性と毒性は強いと言われている。

6.外部評価委員会コメント

所蔵標本はその利用も含めて充実したものになっている。研究活動においてもテーマの広がりや外部機関との連携した良い研究も増えている。また、科研費を取得するなど成果も著しい。
(吉野顧問:元琉球大学准教授)


*1動物研究室

ページトップ