海洋生物の調査研究
河津 勲*1
世界中の海洋に広く分布するウミガメ類の生息数は、自然環境の悪化等により近年著しく減少しているとされ、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストにも全種が掲載されている。ウミガメ類の保全のためには、その生息状況を把握するとともに、飼育下において繁殖や生態に関する知見を集積する必要がある。本事業ではこれらの問題に対応するため、以下の取り組みを実施し、今年度の研究成果として、5編の学術論文に掲載された。
沖縄本島では、日本ウミガメ協議会および調査ボランティアと連携し、産卵状況の把握に努めている。その中で当財団は沖縄県の北西部に位置する本部半島(本部町、今帰仁村、名護市)等での調査を担っている。平成30年度の本部半島では、アカウミガメおよびアオウミガメの産卵が、各々30回および26回確認され、タイマイの産卵は確認されなかった。今後も引き続き産卵状況のモニタリングを行い、ウミガメ類の生息状況の把握に努める。
当財団は沖縄県一般からの情報を元に、海岸に死亡漂着するウミガメ類の調査を行っている。本調査では現場に出向き、種の同定、解剖および計測などを行った。平成30年度にはアカウミガメ、アオウミガメおよびタイマイ、計44例の死亡漂着を確認した。
今年度も例年同様に飼育下で繁殖し、1年飼育した120個体ほどのアカウミガメ、アオウミガメおよびタイマイの標識放流調査を、ヘッドスターティング調査(死亡率の高い時期を飼育下で育て、成長後に放流し、生存率向上を図る考え方)と兼ねて行った。
沖縄島で未成熟時に緊急保護したタイマイを、 2016年7月13日に標識放流し、放流から142日後にあたる2016年12月2日にインドネシアパプア州ヤペン島で再発見された。直線の移動距離は約3200kmであり、このタイマイの長距離移動は東アジアにおいて初めての確認となった。本結果はFauna Ryukyuana誌に掲載された。
またアオウミガメの遺伝子分析による調査を京都大学等と共同で実施した。その結果、琉球列島の個体群はインド洋から太平洋まで幅広いハプロタイプが確認された。これは琉球列島がインド太平洋地域におけるアオウミガメの摂餌海域の北限地として機能している可能性が示唆された。本結果についてはMarine Ecology Progress Series誌に掲載された。
当財団は海洋博公園や沖縄美ら海水族館の管理運営を行っており、公園内にあるウミガメ館において保全に寄与することを目的に飼育研究を行っている。
平成30年度のウミガメ館ではアカウミガメ、アオウミガメおよびタイマイの産卵が確認され、特にタイマイでは、飼育下3世代目の繁殖に成功した。また、1994年のウミガメ館の開館以来、得られた繁殖生態学的データ(クラッチサイズ、孵化率等)を取りまとめ、第10回世界水族館会議において発表した。
平成29年度には世界初のクロウミガメの飼育下繁殖に成功し、雌クロウミガメの成熟開始サイズや、卵形成に要する日数が明らかになった。本結果についてはCurrent Herpetology誌に掲載された。 今年度の緊急保護例は7個体で、3個体が治療後に回復し、放流を行った。緊急保護したアカウミガメの貧血治療方法については、第29回日本ウミガメ会議において発表した。
また、飼育アカウミガメ幼体の心血管性吸虫類の感染を初めて確認し、幼体の死因になることが判明した。この結果についてはMarine Turtle Newsletter誌に掲載された。
ウミガメ類の初期生態を明らかにすることを目的に、岡山理科大学と共同で、飼育下で繁殖したアカウミガメ、アオウミガメおよびタイマイの孵化幼体による人工藻に対する反応を調査した。その結果、アカウミガメとアオウミガメは人工藻に近づくが、タイマイは反応が薄い傾向がみられ、タイマイ孵化幼体が外洋生活を行う際に、流れ藻に依存しない可能性を示唆するものであった。この結果についてはうみがめニュースレター107号に掲載された。
今年度からは、飼育下で得られたタイマイの卵や孵化幼体を用いた、孵卵温度やフレンジーに関する共同研究を高知大学と新たに開始した。
野外調査における地道な取り組みによる研究成果や、飼育下繁殖の成果は高く評価できる。その一方でこのような技術を野生個体の保全にどう貢献させるかが今後の課題となるだろう。
(亀崎顧問:岡山理科大教授)
*1動物研究室
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