海洋生物の調査研究
植田啓一*1
動物研究室では、沖縄周辺にみられる熱帯・亜熱帯性の海洋生物の多様性研究や、生理学・生態学的特性を研究することにより、自然環境保全やその持続的発展への寄与を目指している。また、フィールドが目前にある地の利や、水族館を擁する特徴を最大限に活用し、他の研究機関では実現できないような研究テーマにも挑戦している。これらの研究成果は、地域の産業振興や水族館管理事業にも寄与する(図1)。
平成29年の研究活動は、常駐職員9名に加え、水族館との兼任職員4名で実施した。また、研究内容によっては水族館職員と随時連携しつつ実施した。
平成29年度には6件の科研費を獲得し、次年度に向けて4件の申請を行った。
南西諸島は全鯨類の約3分の1に相当する30種の鯨類が生息するが、生息状況等は不明な点が多い。本調査では、死亡漂着や座礁した鯨類に関する調査、および冬季に近隣海域に来遊するザトウクジラの生態調査を実施した。
ウミガメ類の資源は減少傾向にあると考えられている。本調査では、ウミガメ類の保全に資するために野外での産卵状況調査、漂着・混獲した個体の調査、遺伝子解析による系群調査、飼育下における繁殖に関する調査を実施した。
琉球列島は魚種多様性が極めて高く、未だに新種などの報告も相次いでいる。また、河川などは独特の水生生物相が形成されており、希少種が多く含まれる。本調査では、標本収集による魚類の分類・形態学的調査および他機関と連携した標本の学術・普及啓発活動の推進、ドジョウやヤシガニなどの希少種の生態学的調査、沿岸水域の魚類相調査、環境DNA調査を実施した。新たな取り組みとして、不妊オスを用いた外来種駆除の新技術開発事業も開始した。
水族館の目玉となる大型板鰓類の持続的確保の実現のため、飼育下繁殖技術の向上が重要である。本調査では、水族館の飼育個体や、収集した板鰓類標本を用いて、繁殖に関する生理・生態学的研究を行っている。平成29年度は、飼育板鰓類の成熟状態を判定する技術開発の生理学的・遺伝学的アプローチ、板鰓類の出産プロセスと新生個体の行動に関する研究、プラスチネーション標本を用いた大型板鰓類の循環器機構に関する研究を行った。
造礁サンゴは南西諸島の生物多様性を支える環境要素であり、その動向の把握は保全上重要である。当財団では、長期にわたり海洋博公園地先の造礁サンゴ群集の状態を長期間のモニタリングしている。平成29年度も引き続き調査を実施した。
極めて高いサンゴ礁域の生物多様性の実態把握は、生態系保全上重要である。当財団では、生態系の基礎生産者である海藻・海草類に着目し、沖縄島北部での生育状況を調査している。平成29年度には、本島北部の東西海岸に生育する海藻・海草相に関する野外調査を実施した
飼育イルカの健康管理および飼育下繁殖の推進に向け、感染症、麻酔技術、非破壊的画像診断を行った。さらに、香港オーシャンパークとMOUを締結し、飼育イルカの人工授精に向けた各種取り組みを開始した。
平成29年には24報の科学論文が受理された。論文数は過去最多の平成28年に比べるとやや減少しているものの、その要因は各種研究テーマが内容転換の時期にあるためと認識しており、依然として論文投稿は活発であると認識している。
また、マスコミ等への積極的な情報提供も展開し、8件のプレスリリース、76件の各種メディアの取材を受けた。このように、研究成果は活発にアウトプットされており、平成30年3月に実施した外部評価委員会においても高く評価された。
また、夏休み期間に合わせ、沖縄県立博物館・美術館にて企画展「海のビックリ生物展」を開催し、多くの貴重な所蔵標本を展示した。企画展は財団主催のものとしては異例の盛況であった(入場者約29000人)。
水族館と連携した研究施設は世界的にも稀であり、特にアジア地域においては将来中心的な役割を担う可能性を持っている。このため、今後は研究体制の国際化・グローバル化を目指し、海外からの研修生や来訪者の受け入れ、連携事業等への取り組みを強化する。
また、地の利や水族館施設の利点を最大限に活用し、環境DNAやバイオミメティックス(生物模倣技術)などの最新技術の開発事業にも注力する。
*1動物研究室
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