普及啓発の取り組み
泉千尋*1
普及開発課においては、当財団が実施している亜熱帯性動植物・海洋文化等に関する調査研究の成果や公園管理で培った技術等を活用し、沖縄の自然や文化等に関する知識の普及啓発を実施している。
主な事業としては、教室や講習会の実施や、助成事業、人材育成事業、環境保全活動支援事業等である。また、普及啓発事業に加え海洋文化に関する調査研究事業も実施している。平成29年度の事業の概要は以下のとおりである。
普及開発課の体制は正職員5名、契約職1名、事務補助3名、また、美ら島自然学校では正職員1名、飼育及び事務補助計2名が従事している。
亜熱帯性動植物及び海洋文化に関する知識の普及啓発事業としては、親子、一般を対象とした教室、講演・講習会を開催した。主に親子を対象として、海の生物について学ぶ「美ら海自然教室」を4回、植物や陸の生物について学ぶ「美ら島自然教室」を1回、植物素材等自然発生物や廃棄物等を利用した工作を通し沖縄の生き物や自然環境を学ぶ「美ら島・美ら海こども工作室」を5回開催した。また、美ら島自然学校において小学生を対象とした有孔虫やウミガメ、海岸の漂着物等について学ぶ教室を13回開催した。
一般を対象とした事業としては、サンゴ礁自然誌講座や植物自然誌講座、天然記念物シリーズ講演、平成29年度から開始の「海洋文化講座」等を計21回実施した。
専門家向けとして実施した事業としては、第12回目となる「サンゴシンポジウム」を開催したほか、造礁サンゴの同定スキルを獲得するための「サンゴワークショップ」を実施した。
地域の教育委員会、小学校と連携し、学校のカリキュラムとしての学習を行う通年学習プログラムと、学校からの依頼をうけ単元や総合的な学習の時間における1回完結型の学習プログラムを実施した。通年プログラムとしては、名護市の緑風学園において「ウミガメ」「川の環境」「海の生物」等を題材としたプログラムを5学年計25回提供したほか、名護小学校等において2校計9回実施した。1回完結型のプログラムについては、20校計23件(前年度は10校)を単元授業や修学旅行の学習等において実施した。
沖縄美ら島財団の事業内容を活かした講義を開設し県内の大学へ提供し、沖縄県における高等教育を支援することを目的として、名桜大学(名護市)、新規に琉球大学(西原町)において、寄附講座(全15回)を開講した。財団職員が講師として、大規模公園や水族館等の管理運営など財団の事業や亜熱帯性動植物に関する調査研究、首里城等に関する調査研究について講義を行った。受講者は名桜大学が89名、琉球大学が130名であった。
総合研究センターにおける調査研究項目である亜熱帯性動植物や沖縄の歴史文化に関する調査研究・技術開発、普及啓発活動に対して助成金による助成を行った。応募総数30件の中から、亜熱帯性動物に関する調査研究3件、亜熱帯性植物に関する調査研究2件、沖縄の歴史文化に関する調査研究に1件に助成を決定した。
沖縄の将来を担う人材を育成することを目的に、県内の新聞社が主催、実施する事業に対し共催として参画した。
沖縄タイムス社が主催する「沖縄こども環境調査隊」については、小中学生計8人が隊員として選ばれ、事前学習会や現地視察(慶良間諸島)を通して環境問題について学んだ。
琉球新報社が主催する「新報サイエンスクラブ」については50件の応募があり、小学生31件、中学生3件の調査研究に対し助成を行うとともに、調査研究を支援するフォローアップを行った。
沖縄県北部地域並びに離島での海岸清掃や赤土流出対策等の環境保全活動を支援することを目的に、エコクーポン(沖縄美ら海水族館入館券)を提供する事業を実施した。
2時間以上の海岸清掃活動や、赤土流出防止を目的とした植物の植え付け等の環境保全活動を対象としている。
平成29年度は、広報活動の強化等により利用団体が急増し、27団体に対し、2,165枚のエコクーポンを発行した。(前年度は13団体1,174枚 対前年度比184%)
総合研究センターの調査研究成果を活用し、知識の普及啓発を図るため、学校や市町村等外部からの依頼により職員を講師として派遣した。平成29年度は、31件の講師派遣を行った。
名護市嘉陽小学校の跡地利用事業者として平成27年7月より「美ら島自然学校」の管理運営を実施している。平成29年度は各種プログラムを実施したほか、平成28年7月に完成したウミガメ飼育施設で約100個体のウミガメ幼体の飼育を行った。また、バーベキュー施設の運用を4月から開始した。平成29年11月より民泊家庭に宿泊する修学旅行生への学習対応等を開始し、39件264名の利用があった。
平成29年度の施設利用者数は、8,446名(前年度7,640名 対前年度比110%)であり、各種教室等プログラムの実施だけでなく、地域行事開催時や初日の出観覧の際に施設の開放を行った。
琉球文化財研究室並びに地域と連携し、南西諸島の海にまつわる民俗に関する調査研究を実施した。平成29年度は船漕ぎ儀礼の現況・変容についての調査及び海にまつわる民俗に関する基礎的情報の集積を行った。成果の還元として、調査結果を各地域へ提供した。前年度に引き続き、海洋文化館収蔵品に関するデータベースの確認及び更新、収蔵品を良好な状態で管理するために収蔵資料の劣化状況を調査した。
また、海洋文化館における誘客促進や普及啓発事業に活用することを目的に、新規に「海洋文化講座」を開始し、館内で展示・収蔵されている太平洋や沖縄の島々の海洋文化に関する資料の特徴や展示の見どころを掘り下げたガイドツアー、海洋文化にちなんだ工作教室を計10回行った。
普及啓発事業のプログラム数は、美ら島自然学校の活用、学校連携事業が本格的に稼働したことから増加している。また、財団が行う調査研究事業・普及啓発事業に対する認知度が向上するとともに、外部からの依頼も増加傾向にある。現在、実施しているプログラム終了時には参加者へアンケートを記入していただき、教室等に関する意見や今後の希望等情報収集を行っている。今後もこれらの意見を反映させて利用者及び社会的ニーズに沿った内容のプログラムを考案していく。
これまで実施してきた各事業については、内容が確立した学習プログラムから順次テキスト化を開始した。完成したテキストを広く共有することで、学習プログラムおよびノウハウを提供し、新たな指導者の育成事業に繋げる。また、今後は普及啓発事業の手法や効果について調査を行い、学術的に検討する時期に来ている。
図-1 普及開発課(普及啓発系)の事業と今後の展開
図-2 美ら島自然学校の目的と事業(課題)
*普及開発課
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