亜熱帯性植物の調査研究
安里 維大*1
現在、化学肥料を使用した栽培が主流であり、有機肥料は「臭い、低い成分量、易変性性、バイオフィルムの処理」等と、その扱いの難しさから敬遠されがちである。しかし、リン資源の枯渇、化学肥料の大量使用による環境破壊、健康障害などのため、有益な有機液肥の作出や利用法の開発が望まれている。そこで本調査では、入手し易いマメ科植物を原料に発酵の過程をへて、土耕栽培だけでなく、植物工場及び各種水耕・砂耕栽培システム、底面給水コンテナにも使用可能な有機液肥の作出を図るとともに、植物の養水分吸収促進、環境ストレス耐性の付与などに貢献する菌根菌が一般に成分量が低い有機液肥の問題点を補完できるか否かを調査した。
写真-1 クロタラリアの収穫(美ら島ファーム備瀬圃場)
写真-1 材料仕込み(クロタラリア)
写真-1 発酵の風景(熱帯植物試験圃場)
植物性材料には、簡便に入手出来る(1)オカラおよび窒素含有量の多いマメ科植物、例えば(2)ギンネム、(3)クロタラリアおよび(4)アルファルファを主原料とし、副原料には、有機物の腐熟を促進する微生物を多数生息させている(5)ススキを使用した(表-1)。予め供試材料を24時間水浸した後、24時間自然脱水後の重さを供試材料の重さとし、各マメ科植物およびオカラ50㎏、ススキ10㎏、水400L、パートナー細菌液2ℓを混入し、サーモスタット付ヒーターで水温40℃~42℃に維持し発酵を促して、最長180日間の発酵処理を行った。
液表面はビニールシートでフタをし、供試材料の入ったメッシュ袋には浮上り防止の重石を付け空気に触れないようにした。
発酵開始から定期的に、有機液肥のECはEC計、pHはpH計で測定するとともに、有機液肥中の無機成分含量はイオンセンサ-とパックテストを併用して行った。
供試原料・機材他 | 使用量および機材容量 | |
---|---|---|
アルファルファ | 50 | kg |
ギンネム | 50 | kg |
クロタラリア | 50 | kg |
オカラ | 50 | kg |
ススキ | 10 | kg |
パートナー細菌 | 8 | ℓ |
ポリタンク(4基) | 500 | ℓ |
保温ヒーター(4台) | 940 | W |
供試作物として、エンサイ、黒トウモロコシ、モロコシソウ、メーオーバおよびハンダマを用いた。
培土には、レカトン:ゼオライト=7:3(容量比)を用いた。菌根菌の接種方法は、予めゼオライト1ℓに対して5gのアーバスキュラー菌根菌(AMF)資材(主に、Glomus clarum)を加えて、水200mlを混合したもの1g程度を植物の根元に処理した後、水で培土内にAMF胞子を流し込む方法で接種した。対照区は菌根菌不在で有機液肥のみの区をした。なお、レカトンおよびゼオライトはAMFが不在であることを確認するとともに、土着のAMFのコンタミを防止するため、各ポットをコンテナ内に設置した。
前述した4種類の有機液肥は、10日毎にEC 2 mS/cmの有機液肥をスポイトで各鉢内の植物の根元に5ml施肥した(写真-2)。なお、アルファルファを用いた有機液肥の場合には、EC 1 mS/cmとした。給水は定期的な灌水と降雨で行った。
供試作物の生育調査は、接種2-3か月後に行うとともに、葉緑素計でSPAD値を求めた。なお、ハンダマでは解体調査を行い、各部位の乾物重を測定した。
石井・天内(2016)による世界初の菌根菌検査薬と新開発の携帯型蛍光顕微鏡装置を使用し、ハンダマのAMF共生を観察した。
作出有機液肥の中で、最も無機成分含量が高かったのが、アルファルファであり、次いでオカラであったが、ギンネムおよびクロタナリアは低かった。一方、ギンネムおよびクロタナリアのpHは弱アルカリであったが、アルファルファおよびオカラはpH5程度の酸性であった(表-2)。
写真-3 有機液肥と菌根菌がエンサイの生育に及ぼす影響
表-3 有機液肥と菌根菌がエンサイの葉色(SPAD)に及ぼす影響
写真-4 有機液肥と菌根菌が黒トウモロコシの生育に及ぼす影響
表-4 有機液肥と菌根菌が黒トウモロコシの葉色(SPAD)に及ぼす影響
写真-5 有機液肥と菌根菌がモロコシソウの生育に及ぼす影響
表-5 有機液肥と菌根菌がモロコシソウの葉色(SPAD)に及ぼす影響
写真-6 有機液肥と菌根菌がメーオーバの生育に及ぼす影響
表-6 有機液肥と菌根菌がメーオーバの葉色(SPAD)に及ぼす影響
以上のように、いずれの有機液肥においても、有機液肥のみの区(対照区)よりも有機液肥+AMF区の方が植物の生育が旺盛になり、葉色も良好になった。菌根菌の接種は植物の生長に好影響を及ぼすことがこれまで知られているが、今回の調査でも確認することができた。
ハンダマにおける有機液肥と菌根菌の効果をさらに詳細に調査したところ、以下の結果が得られた。
写真-7 ハンダマの植付け
ハンダマ(茎長3㎝×5㎜前後もの)を2017年1月27日挿し木した。接種区は、挿し木と同時に、AMFを接種した。
写真-8 ハンダマの栽培状況
表-7 有機液肥と菌根菌がハンダマの葉色(SPAD)に及ぼす影響
写真-9 有機液肥と菌根菌がハンダマの生育に及ぼす影響 2017年5月4日に解体調査した。
冬季から春季の栽培にもかかわらず、表-7および写真-9に示すように、ハンダマにおいてもAMF接種によって葉色が良好となり、生育が旺盛になる傾向がみられた。
同様に、乾燥重量においても、有機液肥+AMF区の部位別乾物重量は、有機液肥のみの対照区のものと比べて増加した。
写真-10のAに示すように、対照(有機液肥のみ)区はAMF無接種なので、根に蛍光部位が観察されなかった。しかしながら、有機液肥+AMF接種区(写真-10のB)では根に蛍光部位がはっきりと観察され、AMF共生が構築されていた。
図-1 有機液肥と菌根菌がハンダマの乾物重量重に及ぼす影響
写真-10 ハンダマのAMF共生(撮影:石井孝昭)
写真-10 ハンダマのAMF共生(撮影:石井孝昭)
作出有機液肥の肥料成分量は、アルファルファ>オカラ>ギンネム>クロタラリアの順であった。いずれの有機液肥でも植物体に利用されており、栽培期間中を通して緑色は保たれ、成長し、目立った弊害もなかった。特に、この有機液肥の効果はAMF接種によって高まった。
調査当初、肥料分の高い有機液肥はどのような原料から作出できるかに視点をおいていたが、本調査の結果から、マメ科植物およびオカラのようなマメ科植物由来物を主原料として、腐熟促進微生物を多数生息させているイネ科植物を少量添加することによって良質な有機液肥ができることが明らかとなった。また、この有機液肥の機能を引き出すためにはAMFとの組み合わせが重要であると判断された。
菌根菌観察のための新技術 園芸学研究 15(別2):218.2016 石井孝昭・天内和人(徳山高専)
*1植物研究室
Copyright (c) 2015 Okinawa Churashima Foundation. All right reserved.