亜熱帯性植物の調査研究
佐藤 裕之*1・Ratchada Sangthong*1・端山 武*1・松原 和美*1
沖縄県は日本の南西に位置し、亜熱帯で島嶼という特殊環境であるため他県に比べて植物の多様性が高く、また、日本では沖縄県にしか確認されていない貴重な植物も多い。沖縄県に自生する植物の約4割は絶滅の危機に瀕しており、その保全に向けた研究が急務である。絶滅危惧種を保全する上でその植物の有用価値を見出すことは, 保全活動を推進する動機づけとして重要となる。リュウキュウベンケイとコウトウシュウカイドウは国内では主に沖縄県に自生する植物であり、前者は野生絶滅、後者は絶滅危惧Ⅱ類に指定されている。リュウキュウベンケイの属するカランコエ属とコウトウシュウカイドウの属するベゴニア属は花卉園芸植物として重要な分類群であり、多くの原種が交配育種により園芸化されてきた。しかし、リュウキュウベンケイとコウトウシュウカイドウは園芸植物として未利用の種である。本研究ではリュウキュウベンケイとコウトウシュウカイドウの保全に向け、交配育種素材としての有用性を調査した。
リュウキュウベンケイの茎が長く伸びる特徴に着目し、切花用の品種を作出すべく、千葉大学と交配育種に関する共同研究を行った。その結果、長い茎をもつ種間雑種の獲得に成功した。得られた種間雑種は沖縄県で栽培試験を行い、営利性が見込まれた7品種を選抜した。これらについて品種登録を行い、「ちゅらら」シリーズと名付けた。
「ちゅらら」シリーズは新規花卉品目として地域産業への貢献が期待されたことから、沖縄県農林水産部と共同で普及に向けた調査を開始した。普及に当たっては行政、出荷団体、研究機関等で検討会を組織し、栽培、収穫、輸送、販売等の技術体系を構築すべく戦略会議と調査を実施した。H27年度は得られた収穫物を試験出荷することで、市場評価を得た。
平成27年度に実施した栽培実証試験の結果、キクの栽培技術や施設の応用でちゅららシリーズが栽培可能であると判明した。そこで過年度に集積した情報を元に、栽培等の技術を共有できる資料として「ちゅらら技術体系・収益性」実証マニュアルを策定した。平成28年度は本マニュアルをもとに検討会を実施し、調査内容等の調整を行った。栽培実証試験は本部町3地点、名護市1地点、糸満市2地点で行われ、そのうち本部町2地点で品質の高い収穫物が得られた。この2地点の情報をマニュアルに還元することで、品質の高いちゅららシリーズを生産するための技術を共有した。
図-1 品質の高い収穫物が得られた圃場の栽培風景
図-2 検討会の実施風景
栽培実証試験の結果得られた品質の高い収穫物は、関係出荷団体を通じて県外各地の花き市場へ試験出荷した。平成27年度の市場調査では、輸送後の花ガラや花痛みの発生が課題となったため、平成28年度は出荷に当って切前、梱包方法、梱包資材等の調査を行った。その結果、花ガラや花痛みの少ない最適な輸送条件が明らかとなった。
ちゅららシリーズの普及と公園管理技術の向上を目的として熱帯ドリームセンターにて「ちゅらら展」を実施した。12/10~1/9までの約1カ月間、館内に約1万本の切花、鉢花を用いて装飾展示を行った。展示に当っては、ちゅららシリーズの最大の特徴である水無しで長持ちする性質を活かした壁面装飾や大型ディスプレイ、家庭でもできるアレンジメントの展示などを行い、ちゅららシリーズの特徴と利用方法の紹介を行った。また、展示協力として、富山中央植物園と広島市植物公園でもちゅららシリーズの展示を行った。
平成27年度に実施したリュウキュウベンケイ4系統、カランコエ属22品種との交配の結果、多数の種子を獲得した。平成28年度にこれらを播種したところ、21の組み合わせで約1000本の実生苗を獲得した。得られた実生苗は圃場で養生し、花色、花型の確認と特性調査を行った。その結果、優良個体を3個体と良個体約90個体を選抜した。特に今年は黄色の八重咲きで優良個体、良個体が多く選抜されたため、平成30年度に品種登録を申請することを目指し、H29年度に2次選抜を行う予定である。
平成27年度に桃色の花を咲かせる品種から一部の花茎が枝変わりし、白と紅色の花が混じって咲く現象が確認された。色の変化が起きた組織を切り出し、無菌条件下で植物体を再生させ、平成28年度にその形質を確認したところ、紅色の花の固定に成功した。(白花は固定に至らなかった。)
今後も枝変わりの発生は予測されるため、安定して植物体再生できる技術を構築すべく、花弁培養条件の検討を行った。その結果、ちゅららシリーズの花弁培養に最適な培地条件を明らかにした。
枝変わりは花色の変化のほか、形態や性質に様々な変化をもたらすことから育種上有益な現象であるが、通常の栽培環境下では発生率が低い。そこで、突然変異による育種を加速化すべく、化学物質や紫外線を利用し人為的に変異を誘発する技術の構築を試みた。その結果、通常とは異なる形態の植物体を得ることに成功した。
コウトウシュウカイドウの耐暑性や丈夫さを活かし、沖縄でも栽培可能な観葉ベゴニアの育成を試みた。以前までの取り組みで、コウトウシュウカイドウの近縁種2種との交配で葉色の多様化に成功した。また、小型種1種との交配で鉢栽培に向く小型品種の作出に成功した。
育種を進めるためには交配親が不足していたため、過年度にマレーシア・タイ等から導入したベゴニア属約50品種について、形質を調査し育種親の選抜を行った。その結果、沖縄でも栽培可能な耐暑性を有した品種を約10品種選抜した。H29年度以降はこれらを用いて育種を進める予定である。
*1植物研究室
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