1. 2)ウミガメに関する調査研究
沖縄美ら島財団総合研究所

海洋生物の調査研究

2)ウミガメに関する調査研究

河津 勲*1

1.はじめに

世界中の海洋に広く分布するウミガメ類の生息数は、自然環境の悪化等により近年著しく減少していると言われ、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストにも全種が掲載されている。ウミガメ類の保全のためには、その生息状況を把握するとともに、飼育下において繁殖や生態に関する知見を集積する必要がある。本事業ではこれらの問題に対応するため、以下の取り組みを実施した。なお、今年度の成果として、9編の学術論文や出版物に掲載された。

2.産卵調査

沖縄本島では、調査ボランティアの方々が主体となり産卵状況の把握に努めている。当財団は沖縄県の北西部に位置する本部半島(本部町、今帰仁村、名護市)等での調査を担っている。平成28年度の本部半島では、アカウミガメとアオウミガメの産卵が、それぞれ46回、21回確認された。昨年のアカウミガメの産卵数は劇的に減少したが、今年は若干の増加傾向を示した。これは全国的にも同様の結果が確認されている。
一方アオウミガメにおいては年々増加傾向を示しており、沖縄県版レッドデータブックの改定(レッドデータおきなわ 改訂第3版)において下方修正(ダウンリスト)が決定した。なお、この評価には筆者が参加した。これは沖縄県で長年にわたり調査を行ってきたボランティアの方々のモニタリング結果の賜物である。しかし、アオウミガメが下方修正されたとはいえ、脅威となる混獲や環境悪化による問題が解決されたわけではなく、未だその希少性や保全の必要性は十分に残る。今後も引き続き産卵状況のモニタリングを行い、ウミガメ類の生息状況の把握に努める必要がある。

3.漂着調査

図-1 混獲したオサガメ
図-1 混獲したオサガメ

当財団は沖縄県一般からの情報を元に、海岸に死亡漂着するウミガメ類の調査を行っている。調査では現場に出向き、種の同定、解剖および計測などを行った。平成28年度にはアカウミガメ、アオウミガメおよびタイマイ、計50例ほどの死亡漂着を確認した。一方、平成26年度に海洋博公園に緊急保護し、右前肢が欠損したヒメウミガメについて、うみがめニュースレター105号にて報告した。読谷村の定置網にオサガメが混獲され、沖縄島で生きたオサガメが発見されたのは16年ぶりであった。

4.回遊調査

今年度も例年同様に標識放流調査を行った。今年度の特筆すべきことは、成熟タイマイを放流した結果、中国等の海外で再捕獲されたことであった。沖縄周辺のタイマイは遺伝子分析から西太平洋に広く回遊する可能性が示唆されているものの、その回遊事例に関するデータ(例えば、標識再捕)は全くない。今回のタイマイの再捕獲事例は、西太平洋におけるタイマイの生活史を考察する上で重要なデータであり、保全に資する知見となるであろう。

5.遺伝調査

オサガメは日本周辺に回遊し、全国各地で毎年数件の死亡漂着や混獲が報告されている。しかし、産卵が奄美大島で一度だけ確認されたのみで、日本での定常的な産卵地はない。そのため、日本で確認されるオサガメがどこで生まれたのか、その起源は不明であった。そこで、国立科学博物館等の研究機関と連携し、日本各地で死亡漂着や混獲によって得られた標本のDNA分析を実施した。その結果、多くがニューギニア島からソロモン諸島等の西太平洋の産卵地に由来することが判明した。この結果はCurrent Herpetologyの35巻2号に掲載されている。

6.目視調査

図-2 沖縄島本部半島沖で確認されたアカウミガメの交尾行動(上2頭は雄)
図-2 沖縄島本部半島沖で確認されたアカウミガメの交尾行動(上2頭は雄)

沖縄島周辺に回遊するアカウミガメはその多くが繁殖を目的としていると考えられているが、交尾を観察した事例は稀にしかない。交尾の発見事例を記録することは、本種の繁殖海域を理解する上で重要である。
2015年3月に本部半島西海域において、アカウミガメの交尾を観察した。しかも1頭の雌に対して2頭の雄がマウンティングしていた。雌は雄のペニス挿入を拒んでいたが、雄1頭が離れた直後に、もう一方の雄のペニス挿入を受け入れた。以上のような複数のアカウミガメによる交尾行動は世界で初めて記録され、これは沖縄島周辺でのアカウミガメの交尾は3月から開始されることを意味する。本結果はCurrent Herpetologyの36巻1号に掲載されている。

7.飼育下における研究

図-3 雌タイマイの卵管内への精液注入(内視鏡を使用)
図-3 雌タイマイの卵管内への精液注入(内視鏡を使用)

当財団は海洋博公園の管理運営を行っており、公園内にあるウミガメ館で飼育研究を行っている。平成28年度のウミガメ館ではアカウミガメ、アオウミガメおよびタイマイの産卵が確認された。このタイマイの繁殖結果については、社団法人日本動物園水族館協会に繁殖賞(自然)の申し込みを行った。タイマイの人工授精の研究では、電気刺激法によって採取された精液を雌へ注入する際に内視鏡を使用し、精液注入に成功した。今後の人工授精成功に期待したい。
当財団では平成27年度に事故死したアオウミガメの卵を体内から取り出し、人工ふ化に成功した。この結果についてはMarine Turtle Newsletter 151号に掲載された。
その他の飼育研究として、ウミガメ類の甲羅の付着物除去に適した魚類を複数のブダイ類やアイゴ類でスクリーニングし、オビブダイが適していることが考えられたほか、アオウミガメ幼体で確認されたヘルペスウィルスと思われる皮膚疾患について取りまとめた。これらの結果はうみがめニュースレター104号に掲載された。


*1動物研究室

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