普及啓発の取り組み
篠原礼乃*1・前田好美*1
近年、地球温暖化、生態系の危機等、様々な環境問題への対応、沖縄の自然環境、歴史風土を活かした観光及び産業の振興、地域との連携、公園利用ニーズの多様化等に対応した公園の管理運営等の課題が取り上げられている。これらの諸課題のうち、財団の設立目的にかなう社会的ニーズの高い環境問題、産業振興、公園機能の向上等に関する調査研究・普及啓発事業を拡充・推進し社会の要請に迅速に対応するとともに、地域・社会へ貢献するため、財団の事業目的に合致する調査研究等を実施する団体、個人に対して研究費用を助成する「調査研究・技術開発助成事業」を平成20年度より実施している。更に、研究手法・成果の共有や情報交換を行うため、既に研究報告を終えた助成研究者を招聘し、「亜熱帯性動植物に関する調査研究技術開発研究会」を開催した。
助成対象となる研究分野は、財団設立の目的事業である亜熱帯性動植物に関する調査研究技術開発並びに知識の普及啓発や公園管理技術の向上にかかる研究等とした。また、平成26年度は新たに海洋文化に関する調査研究・技術開発を重点テーマに加えた。テーマの一覧は下記の通り。
平成26年4月14日から平成26年6月3日を応募期間とし、期間内に23件(動物系11件、植物系7件、海洋文化系2件)の応募があった。平成26年7月11日の本審査会において、亜熱帯性動物に関する調査研究・技術開発3件、亜熱帯性植物に関する調査研究・技術開発1件、海洋文化に関する調査研究・技術開発1件の合計5件を採用した。採用事業は表-1のとおりである。
亜熱帯性動物に関する調査研究・技術開発
分類 |
申請者 |
事業名 |
申請金額 |
---|---|---|---|
調査研究 |
渡久地 健(琉球大学 法文学部 准教授) |
琉球列島におけるサンゴ礁漁撈文化とその潜在力に関する研究 |
1,000,000 |
亜熱帯性植物に関する調査研究・技術開発
分類 |
申請者 |
事業名 |
申請金額 |
---|---|---|---|
調査研究 |
大門 弘幸(大阪府立大学 学術研究院 第2学群応用生命系 教授) |
宮古島黒小豆(ササゲ)の遺伝資源の保全と伝統的食文化の継承に関する研究 |
999,320 |
海洋文化に関する調査研究・技術開発
分類 |
申請者 |
事業名 |
申請金額 |
---|---|---|---|
調査研究 |
兵藤 晋(東京大学 大気海洋研究所 生理学分野 准教授) |
西表島浦内川に遡上するオオメジロザメの生態・行動・生理学的調査研究 |
982,000 |
調査研究 |
吉国 通庸(九州大学大学院 農学研究院 教授) |
沖縄周辺に生息する熱帯性ナマコ類の産卵期の周年解析 |
860,000 |
調査研究 |
嶋津 信彦 |
南西諸島における陸生・陸水生カメ類の分布変遷 |
1,000,000 |
①目的
助成研究者を招聘し研究会を実施することで研究手法・成果の共有、情報交換を行い、今後の調査研究・普及啓発事業の効果的・効率的実施にむけた技術向上を図る。
②開催日
平成26年2月21日(土)
午前の部/亜熱帯性植物に関する調査研究・技術開発研究会(以下、植物研究会)
午後の部/亜熱帯性動物に関する調査研究・技術開発研究会(以下、動物研究会)
③場所
美ら島研究センター 視聴覚室(本部町字石川888番地)
④参加者
合計61名
植物研究会36名
動物研究会25名
平成25年度公募研究助成事業成果報告
研究者:島根大学 生物資源科学部 上野誠
土着微生物を活用した沖縄産農作物の病害防除技術の開発
沖縄県のマンゴー栽培では,マンゴー炭疽病の被害が大きく,防除も困難となっている.マンゴー炭疽病の防除には,農薬が使用されているが,耐性菌の出現が危ぶまれている.本研究では,土着微生物を活用した収穫後のマンゴー病害の発生抑制のための技術開発を行うために,微生物の生産する揮発性の抗菌物質に注目して研究を進めた.まず,沖縄県内で栽培されていたマンゴーの苗木及び果実中に生息する微生物を分離し,特徴の異なる10菌株を分離した.その結果,揮発性の抗菌物質を生産する微生物は分離されなかったが,マンゴー炭疽病の生育を抑制する微生物の分離ができた.次に沖縄微生物ライブラリーに保存されている土着微生物を用いて,スクリーニングを行った.その結果,マンゴー炭疽病菌の感染行動だけでなく,マンゴー果実上でも抑制効果のある揮発性抗菌物質を生産する土着微生物を複数スクリーニングすることができ,実用化に繋がる成果が得られた.
本研究では,沖縄県内に生息する土着微生物を活用して,マンゴー炭疽病の防除に利用可能な2つの成果を得た.まず,沖縄で栽培及び収穫されたマンゴーの苗木及び果実中に生息する微生物からマンゴー炭疽病菌の生育を抑制できる微生物を分離した.本微生物はマンゴー果実内から分離された微生物であり,同定の結果,Streptomyces属菌であった.今後,研究を続けることにより,微生物農薬として利用できる可能性が考えられた.また,本研究では,沖縄微生物ライブラリーに保存されている土着微生物の中から,マンゴー果実上でも抑制効果のある揮発性抗菌物質を生産する複数の土着微生物のスクリーニングをすることができた.同定の結果,これらの微生物はBacillus 属菌であった.今後,これらの微生物が生産する揮発性抗菌物質の同定を進めることにより,収穫後のマンゴー炭疽病の発病を抑制できる薬剤の開発が可能になると考えられる.
平成22年度公募研究助成事業成果報告
研究者:京都薬科大学附属薬用植物園 月岡淳子
Aquilaria crassnaの沖縄県における露地栽培の検討
京都薬科大学附属薬用植物園(京都市伏見区)において,加温施設内(最低温度15度)で栽培しているAquilaria crassna 2株の開花・結実状況等の基礎データ収集を行い,両株から採取された種子の発芽能力について調査した.また,発芽後の苗木の生長(樹高)を一つの指標として苗木の管理方法を検討した.さらに,(一財)沖縄美ら島財団総合研究センターにおいて,鉢植え株及び定植株を10株ずつ用意し,沖縄県における露地栽培の可能性を検討した.
開花・結実状況の検討結果,果実の成熟(裂開)時期を絞り込むことができ,困難であった果実収穫時期の判断を助けるデータが得られた.また,採取した種子の発芽後は,排水性の良い用土を用いて,遮光率25%程度の寒冷紗下での管理が必要であることが分かったが,一方で発芽2年目以降の苗木の生長にばらつきが生じることや冬期の温室管理期間に枯死株が増えるなどの課題が残った.露地栽培株の調査からは,総合研究センター(沖縄県国頭郡本部町)付近の気温条件下で越冬が可能であると判断するに至った.
京都薬科大学附属薬用植物園で実施した発芽試験や苗木管理方法の検討結果,安定して高い発芽率を維持するための条件を再検討すること,苗木の生存率をさらに高めるための管理方法の改善などに今後の課題も挙げられるが,本研究において播種から苗木管理に用いた方法は,将来的に沖縄県で苗木生産する際に応用できると考える.また,沖縄県国頭郡本部町付近では露地で越冬可能であることが判明したが,一方で強烈な日差し,台風や冬期の強い北風,さらに順調な生育を妨げる一因と考えられる土壌の排水性への対策は必須である.排水性が良い土地の選定を第一条件に,比較的樹高が高い照葉樹林等で囲まれた場所に苗木をまとめて植えることで,今回の研究で判明した課題にも対応できると考えられ,将来的に大規模な栽培にも繋がるものと期待される.
平成22年度公募研究助成事業成果報告
研究者:琉球大学農学部 陳 碧霞
琉球諸島における伝統集落の景観構造と植生環境に関する調査研究
本研究は,琉球諸島における伝統的集落景観の構造,フクギ屋敷林の分布とそのレイアウト,植生構造,などの特徴について解明することが目的である.さらに,フクギ屋敷林に関する住民の保全意識を明らかにする.そのために,集落景観の構造,集落内のフクギ屋敷林の毎木調査,フクギ巨木の分布調査及び住民意識調査を行った.
①伝統集落景観の地理的構造
多良間島を事例として調査を実行した.各屋敷を囲むフクギ及び曲線になっている集落内の道路は伝統的な集落景観の一番大きな特徴と言える.さらに,古い井戸,御嶽などの拝所は景観形成の重要な要素である.
②フクギ屋敷林の毎木調査
本部の備瀬,粟国島,渡名喜島,多良間島の各集落には,樹齢100年以上のフクギが1000本以上見つかった.
③フクギ巨木分布調査
八重山諸島から奄美群島の沖永良部までフクギ屋敷林景観が見られることが分かった.その北の島の徳之島からは,ガジュマルが屋敷林に使われるのが一般的であることが分かった.
④フクギ屋敷林に関する住民の保全意識
フクギ屋敷林の保全に関しては,その評価に対する潜在的な意識は高く,新たな活用法を開発し,地域住民自らから保全活用する施策を見出して,それを行政側が支援して行く体制の構築が,今求められている.
本研究の成果に基づいて,数本の研究論文及び一冊の研究をまとめた本が発表された.また,1本の論文が完成し,現在雑誌投稿審査中である.
これらの成果は,沖縄の集落景観,フクギ屋敷林の構造,フクギ巨木,さらに,フクギ屋敷林に関する住民意識等についてある程度解明された.今後,観光開発に伴う地域独特の景観づくり,都市計画や農村景観づくり,などの面で,新たな指針を提供できるものと期待される.
また,本研究から幾つかの新たな課題が見つかった.
①近年の研究では沖縄本島の幾つかの集落調査はあったが,フクギ屋敷林の構造やその植生生態分布の実態に関する研究は十分ではない.本研究では,琉球諸島の自然環境に適応した集落景観づくりの特徴を探ることを目的にしている.その生態景観学,特に社会文化の側面を解明する.
②または,集落住民からフクギの植栽や利用管理に関する歴史やその知識を聞き取り調査で記録し,分析する.国際社会的に注目されている持続可能な社会作りを目指しローカルの視点から貢献していく.
③研究成果を発信すること.フクギ屋敷に関する研究成果を地元住民とローカル行政と共有し,沖縄の独特なフクギ屋敷林の保全策の在り方を検討する.
平成22年度公募研究助成事業成果報告
研究者:琉球大学資料館(風樹館)佐々木健志
現存する藁算資料のデータベース構築に必要な基礎的資料の収集と藁算の教材化に関する調査研究
①国内に保存されている藁算の原資料調査
今回の調査では,現存する藁算コレクションの最大数を収蔵する国立民族学博物館で,明治期に沖縄で収集された標本について詳細な調査を実施した.本調査期間中に,合計3回にわたり国立民族学博物館の収蔵庫に出向き調査を実施したが,残念ながら,今回の調査では総計262点の藁算のうち,約半数の123点しか調査を完了できなかった.来年度についても,国立民族学博物館の調査を継続し,全資料についてのデータベース構築に向けた個別シートの作成を実施する予定である.
②県内に現存する藁算の利用形態についての調査
宮古島の砂川・友利地区で行われる津波除けと豊年を祈願する「ナーパイ」で使われるワラザンの実態調査を行った.また,宮原地区南増原の豊年祭に使用されるワラザンの実態調査も行い,標本の収集と詳細な記録を行った.このほか,本調査中に新たに2件の藁算の使用が明らかになった.このうち宮原地区北増原の豊年祭では,西銘御嶽に藁算が奉納されるとのことであるが,すでに豊年祭が終了していたため詳細な調査を次年度実施する予定である.また,嘉手納町屋良地区の「シマ御願」での藁算奉納については,調査を実施し,藁算標本の採集と記録を行った.
藁算は,民俗学的な研究対象としての重要性のみならず,その文化的背景や形状のユニークさからも,沖縄独自の学校教材としても広く利用することが可能である.このため,今回の研究成果をもとに,藁算の教材化と継承を目的とした藁算に関する教育プログラムの開発や藁算ワークショップを実施する予定である.また,これまでの調査で現代における藁算利用の実態が明らかになった,沖縄島の今帰仁村,嘉手納町,糸満市,宮古島・鳩間島においては,いずれの地域でも藁算の意味や制作過程に関する正確な記録が残されておらず,その形態や役割(意味)が形骸化する傾向にあった.さらに,藁算を作成できる人が年々減少するなか,関係者の間では藁算の継承を危惧する声も多く聞かれた.このような現状を踏まえ,本研究会では,藁算が残る各地域と連携して藁算文化の保存と継承者育成に必要な地域活動についても支援していきたいと考えている.
平成21年度公募研究助成事業成果報告
研究者:琉球大学理学部 広瀬裕一
藍藻共生性海綿Terpios hoshinotaはサンゴ礁を覆い尽くすか?
Terpios hoshinotaの分布現況を明らかにするため,奄美大島以南の南西諸島において54箇所で目視による観測を行った.その結果,石垣島,宮古島,久米島,沖縄島,与論島,徳之島における計14箇所で本種によるサンゴへの被覆が確認された(Reimer et al., 2011a).また,グレートバリアリーフで初めてT. hoshinotaの分布を報告した (Fujii et al., 2011).過去に大規模被覆が報告されていた徳之島与名間では,今回の調査で本種の分布は確認されなかった (Reimer et al., 2011c).従って,T. hoshionotaの大発生はサンゴ礁生態系に大きな影響を及ぼすものの,東京大学大気海洋研究所
南條楠土一方,沖縄島備瀬崎において隔月のモニタリングでは,本種が周年確認された.顕微鏡観察や分光分析により,本種が高密度に共生藍藻を細胞外に保持することや,この藍藻が光合成色素としてchlorophyll a, phycocyanin, R-phycoerythrinを持ち,幅広い波長の光を利用できることなどが示された (Hirose & Murakami, 2011).
本研究によりT. hoshinotaの分布現況の一端が明らかとなった.本種によるサンゴの被覆は少なくとも短期的にはサンゴ礁への脅威になり得ると考えられ,詳細な出現状況把握とその拡大について注視すべきことが示された.今後,本種の生育の制限となる光量や温度など生理的な側面を明らかにするとともに,分散機構や台湾を含む島嶼間での遺伝学的な解析を進めることで,本種の分布拡大への対策が検討できると期待される.また,組織・微細構造学的解析により,本種が季節的に有性生殖を行うことが明らかとなったことから,幼生による分散の重要性が認識された.以上の課題については,既に台湾の研究グループと連携して研究をはじめている.本研究の成果一部は第2回アジア-太平洋サンゴ礁シンポジウムと第13回日本サンゴ礁学会で発表した.
その後,台湾の研究グループと共同で,T. hoshinotaによる中実幼生と放出と微細構造を報告した (Wang et al., 2012) .
平成21年度公募研究助成事業成果報告
研究者:東京学芸大学教育学部 三田雅敏
サンゴを食害するオニヒトデの生殖制御に関する技術開発
本事業の目的であるサンゴを食害するオニヒトデ (Acanthaster planci) の生殖制御に関する技術開発として,具体的に,①オニヒトデの生殖巣刺激ホルモン (gonad-stimulating substance, GSS) の化学構造を同定し,さらに,②オニヒトデ生殖巣の成長・発達について組織学的な解析をおこなった.その結果,オニヒトデの放射神経から抽出されたGSSは,既にイトマキヒトデ (Asterina pectinifera) で同定されているGSS同様にインスリン/IGF/リラキシンスーパーファミリーに属す2量体ぺプチドであることが明らかになった.また、瀬底島周辺に生息するオニヒトデを定期的にサンプリングし,組織学的観察をおこなった結果,卵巣・精巣とも3月から6月にかけてもっとも著しい成長が見られ,8月以降は極端に委縮していた.このことからオニヒトデの繁殖期は6月末から8月初めであることが示唆された.
今回,オニヒトデ (Acanthaster planci) の瀬底島周辺での繁殖期が6月末から8月初めであることが示唆された.オニヒトデの幼生は富栄養(リン酸塩や有機物など)を好むことから,この時期に生活排水や農業用肥料などが周辺のサンゴ礁に流れ込まないような策を講じることが必要である.オニヒトデの幼生が稚ヒトデまで発生できなければ,オニヒトデの異常繁殖を抑制することに繋がり,結果的にサンゴの保全に有効であると考えられる.例えば,すでにオーストラリアで効果が得られているように河口付近にマングローブなどを育成するのも一案かと思われる.また,本事業においてオニヒトデの生殖腺刺激ホルモン (GSS) が同定されたことで,神経からGSSの分泌を抑制することで親個体の放卵・放精を制御できる可能性がある.しかし,GSSの分泌機構については,未だ解明されておらず今後の研究成果に期待される.
平成23年度公募研究助成事業成果報告
研究者:東京大学大気海洋研究所 南條楠土
西表島浦内川のマングローブ域に生息する希少種の生態研究~希少種の微細生息場利用パターンと各種を支える餌起源の特定~
本事業の結果,西表島浦内川のマングローブ域における澪とタイドプール(微細生息場)より, 3種の希少種(マングローブゴマハゼ,ミスジハゼ,ホシマダラハゼ)が採集された.このうち,マングローブゴマハゼは澪とタイドプールを利用する魚類群集内において個体数で優占していた.希少種はすべてマングローブ林の微細生息場に出現し,干潟にはまったく出現しなかった.このような希少魚類の分布要因を検討するために,各微細生息場において,餌生物量と炭素・窒素安定同位体分析によって餌環境を調べ,さらに,水温や底土の粒径といった物理環境条件を調べた.その結果,希少種の分布するマングローブ林は,必ずしも餌環境のよい場所ではないことがわかった.そして,マングローブの複雑な根の構造と,その周辺に形成される軟泥環境が,希少種が生息するうえで重要な環境要因であることが示唆された.
本事業により,マングローブ林の澪とタイドプールは干潮時にマングローブゴマハゼ,ミスジハゼ,ホシマダラハゼといった希少種が利用する重要な微細生息場のひとつとなっていることが示された.これらの希少種にとって,マングローブ林における複雑な根の構造の存在や,その周辺に形成される軟泥環境が生息場所を決定するうえで重要であると考えられた.これにより,仮にマングローブ林を伐採したならば,その環境に依存する希少種は個体群の維持が困難となることが推測される.したがって,魚類の種多様性保全の観点から各地域のマングローブ域の保全を行う際には,マングローブ林内の澪とタイドプールも含めたうえで優先的に保全するべき場所の選定や保全計画の立案などを検討することが望ましい.今後は希少種が干潮時に利用することのできる澪やタイドプールなどの軟泥質の微細生息場の創出,あるいは再生まで視野に入れたマングローブ域の保全計画の立案が求められるであろう.
平成22年度公募研究助成事業成果報告
研究者:日本大学 生物資源科学部 間野伸宏
クマノミ類の稚仔魚期におけるイソギンチャク共生機構に関する研究
クマノミのイソギンチャク共生機構解明を目的として,仔稚魚期の個体を供試魚として,上皮細胞の形態,皮膚組織の細胞構成,皮膚組織の糖鎖解析,および皮膚粘液のプロテオミクス解析を実施した.結果として,稚上皮細胞の形態には差異は認められなかったのに対し,粘液細胞数は稚魚期において有意な増加が確認された.加えて,糖鎖解析のために実施したレクチン染色では3種類のレクチンの結合性が仔稚魚期において異なっていた.そしてプロテオミクス解析として二次元電気泳動解析を実施したところ,稚魚期に特異的なスポットが検出され,LC-MS/MS解析の結果,タンパク質合成に関与するsmall nuclear ribonucleprotein Fと同定された.またより網羅的解析を行うため,皮膚粘液のショットガン解析を行ったところ,稚魚期では代謝に関わるタンパク質が全体の4割を占め,仔魚期と比べ有意に高い15種類のタンパク質を明らかにした.現在,プロテオミクス解析により得られたこれら物質の機能解析を進めている.
本研究の結果,仔魚から稚魚の成長段階において,粘液細胞数が増加し,皮膚組織および糖鎖局在も変わることが明らかとなった.加えて,複数のタンパク質の発現が亢進することも確認された.その多くは,稚魚期に移行する際の生理代謝亢進に関わる物質であると推察されたが,中には機能不明なUnknown proteinが複数含まれており,共生因子としての機能を有する可能性がある.その証明には,(1)物質の塩基配列決定と発現解析,(2)(1)の配列情報に基づく組換体の作出,(3)(2)を用いた機能解析が必要であり,現在、一部のタンパク質については(1)の解析を開始している.また,(1)の発現解析や(3)では多くの仔稚魚が必要となることから,本研究課題の最終年度(平成25年度)において,本研究グループ施設内にカクレクマノミのブリーディングシステムを構築し,解析を開始した.
*1 普及開発課
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