亜熱帯性植物の調査研究
宮里政智*1・安田哲也*1
小規模温室において各種冷却システムの実証実験を行い、大型温室内冷却システムの構築に寄与すると共に、各種栽培温室内の簡易冷却方法の開発に資する目的で実施した。その実証実験の結果をまとめたので報告する。
1)期間
平成26年8月1日~平成26年9月31日
2)調査方法
(1)圃場の既存温室(4号温室)内に8m×3.5m×約3mの小規模温室(ビニールハウス)を作製し、試験用の温室とした。以下、試験温室と表現する。
(2)試験温室内及び周辺の5か所に自動記録式の温湿度計測器を設置し、温室内外の温湿度変化を測定した。温湿度計は、試験温室内に2個、4号温室屋根上付近及び内部(高さ約1.5mの位置)に各1個、外部(百葉箱)に1個、計5個を設置し、5分間隔で測定した。
(3)使用資材等
・自記温湿度計:Wireleless Thermo Recorder RTR507
・クーラー:ルームエアコンRC-V2814
・直工フアン:サーキュレーター(CV-3510 単相100V 風到達距離約20m)
・ドライミスト:マイクロフォガーセット
・遮光ネット:シルバー遮光率90%
1)簡易(市販)クーラー単独使用
(1)密閉状態のビニールハウス(試験温室)にクーラーを設置し、冷房機能を確認する。
2)ドライミスト単独使用及びクーラー+ドライミスト併用
(1)密閉状態での冷却機能を確認する。
(2)上部解放状態+遮光ネット(1枚シルバー)での冷却機能を確認する。
(3)上部解放状態+遮光ネット(3枚シルバー)での冷却機能を確認する。
3)ドライミスト単独使用及びクーラー+直工ファン+ドライミスト併用
(1)上部解放状態+遮光ネット(2枚シルバー)での冷却機能を確認する。
4)遮光ネット単独使用
(1)上部解放状態(3枚シルバー)での冷却機能を確認する。
5)4号温室屋根部分でのドライミスト単独使用
(1)上部解放状態+遮光ネット(3枚シルバー)上部での冷却機能を確認する。
6)シャワーカーテン型冷却装置使用
(1)上部解放状態+遮光ネット(3枚シルバー)+冷却装置での冷却効果を確認する。
簡易クーラー単独使用
(1)試験温室の環境条件:密閉状態(周囲をビニールで覆い、上部を防草シートで覆う)。遮光ネットなし。
試験温室内の容積=3m×8m×2.8m≒67㎥
温湿度変化を8月15日、16日、18日に測定した。図(8月18日)から、クーラーを稼働していない11:00時点での、外気温度(No4)32.6℃に比較して、4号温室の上部(No3)36.0℃、4号温室内(No5)温度36.8℃、また、試験温室内の温度が42~43℃を示していた。試験温室内の温度は、外気温より約10℃高くなっており、かなりの暑さを感じた。直射日光等により4号温室内が暖められ、その中に設置された試験温室を更に暖めたものと考えられる。また、温室の骨組みも太陽の熱で、手で握ることができないほどの熱さであった。一方、11:00頃からのクーラーの稼働にともない試験温室内(No1,No2:42~43℃)では、顕著な温度低下が見られ、11:50には、35.1~34.8℃と7~8℃低下した。しかし、外気温と比較すると、小雨が降った13:15頃で、外気温31.4℃に対し試験温室内は32.7℃で外気温度よりも低くなることはなかった。15:40頃の雲が多く直射日光が遮れた場合は外気温度34.2℃より、32.6~33.4℃と下回るものの晴天時には、外気温度よりも、高い傾向にあった。
湿度については、外気湿度(No4)が高く、4号温室屋根(No3)及び室内(No5)、試験温室(No1,2)とも低くくなる傾向にあった。また、13:00頃の降雨等により外気湿度、及び4号温 室内(No3,No5)湿度は、顕著な湿度上昇が見られた。密閉状態の試験温室内(No1,No2)では、若干の上昇はあるもの大きな変化は見られなかった。クーラーが稼働しているためか常に低い傾向にあった。
2)ドライミスト単独及び簡易クーラー+ドライミストの併用(間隔:15秒稼働、停止20秒)
(1)試験温室の環境条件:密閉状態(周囲をビニールで覆い、上部を防草シートで覆う)。試験温室の上に90%遮光ネット1枚(シルバー)を敷設。温湿度は8月21日に測定した。操作は、11:18ドライミスト(上4個、下6個ノズル)の単独稼働を行い、その後11:29換気を行い、11:55クーラーを稼働(以後終了まで稼働)した。14:14ドライミスト(上4個ノズル)稼働、15:02ドライミスト(下6個のノズル)+クーラー稼働、15:30ドライミスト(上4個ノズル)クーラー+換気の稼働、15:57ドライミスト(下6個ノズル)クーラー+換気稼働の順に実施した。
図(8月21日)から、11:18のドライミスト(上4、下6個ノズル)単独稼働で、密閉された試験温室内の温度は、40℃付近から32℃付近へと短時間で約8℃急激な温度低下が見られた。逆に、湿度は急激に上昇し96%~100%にまで達した。その後、11:29にブロワー等で喚気することにより湿度は60~70%に下げることができたが若干の温度上昇が見られた。その後、クーラーの稼働により2℃程の温度低下が見られたが、外気温の上昇に伴い、試験温室内の温度も2~3℃上昇した。14:14にドライミスト(4個ノズル)を上から下へ、また、15:02に下(6個ノズル)上向きとし、温湿度変化を確認した。図(8月21日)から、試験温室内の温度は、いずれも約5℃程度急激に低下していることが確認できる。逆に、湿度は、80~90%へと急激な上昇が見られた。
その後、換気することにより、湿度は下がるが温度は上昇した。本試験では、ドライミストを稼働することにより、約8℃の急激な温度低下を生じることができるが、その際の湿度は、100%に近い値になっている。クーラーの稼働を加えることによって、外気温度よりも6~8℃低くすることはできるが、同じく湿度は100%近くに達していた。 また、換気することにより湿度の低下は見られるが温度の上昇も見られることから、ドライミスト使用については、使用場所、時間等を考慮する必要がある。
(2)試験温室の環境条件:上部解放状態(遮光ネット1枚設置)。温湿度は8月26日に測定した。
操作は、13:32遮光(90%シルバー)ネットを敷設後、ドライミスト上下稼働、14:04ドライミスト上下稼働+クーラー、15:35ドライミスト下(6個ノズル)稼働+クーラー、16:00ドライミスト上(4個)稼働+クーラーの順に実施した。
図(8月26日)から、ドライミスト上下(10個ノズル)単独の稼働により、試験温室内35℃から3~4度の温度低下が見られたが外気温度との差は、約1℃低くなっている程度であつた。湿度は、急激な上昇がみられ90%に達した。上部が解放しているためかそれ以上の上昇は確認されていない。
ドライミスト上下稼動+クーラーでは、外気温と比較(14:30)して約2℃、4号温室内とは約8℃低い値を示した。試験温室内はクーラーの稼働により約10%の湿度低下が認められた。ドライミスト下(4個ノズル)+クーラー及びドライミスト上(6個ノズル)+クーラーでは、逆に僅かな温度上昇が見られた。湿度については、更に低下し60~70%を示し、ノズルからの噴出量に影響していることが伺えた。
(3)試験温室の環境条件:上部解放状態(遮光ネット3枚設置)。温湿度は9月2日に測定した。
操作は、11:50ドライミスト上下単独稼働、12:51ドライミスト下稼働、13:25ドライミスト下稼働+クーラーの順に実施した。
図(9月2日)から、ドライミスト上下単独の稼 働により約2℃の温度低下が見られる。外気温度と比較すると、約1℃高い値を示していた。湿度は、急激な上昇が見られ、60%前後であったのが80%前後にまで達した。ドライミストを停止し、クーラーだけの経過を見ると外気温よりも約2℃低い温度で推移していた。試験温室内の湿度は、外気湿度より6~10%高く、62~72%で推移していた。
3)ドライミスト単独及び簡易クーラー、直工(強力)ファン、ドライミストの併用(間隔:15秒稼働、停止20秒) (1)試験温室の環境条件:上部解放状態(遮光ネット2枚設置)温湿度は8月28日に測定した。
操作は、12:57ドライミスト上下(10個ノズル)稼働し、13:23ドライミスト上下+直行ファン稼働、14:00ドライミスト下+直行ファン+クーラー稼働の順に実施した。
図(8月28日)から、ドライミスト上下単独の稼働により、試験温室内の温度を4~5℃低下させることができた。外気温との比較では、約2℃低い程度であった。湿度はミストの稼働で、70~76%と上昇が見られた。直行ファンの稼働では、温度がやや上昇する傾向はあるが顕著な変化は見られなかった。しかし、 湿度は、直行ファンで強制的に換気することにより最大で約20%の低下が見られた。ドライミスト下稼働+直行ファン+クーラーとの併用では、試験温室内の温度は、外気温と比較して、3~4℃の低下が見られた。湿度は、60~70%の範囲で推移し、外気湿度との比較では、15~20%程高い傾向にあった。
4)遮光ネット単独使用 (1)試験温室の環境条件:上部解放状態(遮光ネット3枚設置)。温湿度は9月3日に測定した。13:15の4号温室(No5)内の温度は、42.7℃で試験温室内(No1,2)は37.2℃~37.0℃であり、約5.6℃の低い温度を示していた。12:55の外気温(No4)との比較では、約4.6℃高い値を示していた。
湿度は、11:30~14:00までの外気湿度(No4)が61~66%で、試験温室(No1,2)内が52~59%、4号温室内(No5)が、41~50%と推移しており、外気湿度より低い傾向が見られた。温室内で遮光することにより、ネットだけで約6℃の温度低下が見込め、また、直射日光が斜めから(朝陽及び西陽)入らない工夫をすることにより、遮光効果による温度低下は更に高まることが推察される。
5)4号温室屋根部分でのドライミスト単独使用
(1)上部解放状態+遮光ネット(3枚シルバー)の上部での冷却機能を確認する。
4号温室の屋根部分に温湿度計を設置し、ドライミストによる冷却効果を測定した。操作は、4号温室の屋根から下約40cm付近にドライミストのノズル(水平に10個)設置し、11:21ドライミスト(水平10個ノズル)稼働(15秒ミスト、20秒ストップ)、13:34連続運転に切り替えて実施した。図(9月18日)から、11:20に46.3℃を示していた屋根部(No3)が11:21のドライミスト稼働により11:40には35.1℃と、約11℃の温度低下を示した。その後は、36~41℃で推移した。湿度は、約30%からミストの稼働により70%付近まで急激な上昇が見られたが、その後は40~65%で推移していた。
13:34からの連続運転では、噴出量が多く計器に結露が見られ正確な測定はできなかった。また、湿度については、急激な湿度上昇が見られ、90~100%での推移が記録された。
6)シャワーカーテン型冷却装置を使用
(1)上部解放状態+遮光ネット(3枚シルバー)+冷却装置での冷却効果を確認する。試験温室内にシャワーカーテン改良型を設置し改良型からの距離の違いによる温湿度の変化を9月29日に測定した。
操作は、高さのあるボックス中のココナッツマットにシャワー状に水を流し、その際シャワー状の水に周辺の空気を背後から直行ファンで吹き付け、空気を通過させた。なお、水はポンプで循環させた。
温度は、距離により違いが出ており、改良型から230cmの位置で、約34℃から29℃にと4℃の低下、430cmの位置では、約34℃から30℃と3℃の低下が見られた。湿度は、逆に230cmの位置で、56%から85%に、430cmの位置で55%から75%付近まで急激に上昇した。
この方法は、温室内の湿度を高めるのに効果的な方法であり、飽差を考えた植物管理では有効な手法であることが伺える。(飽差=ある温度と湿度の空気に、あとどれだけ水蒸気の入る余地があるかを示す指標で、差が大きすぎると水分不足で気孔は開かず、少なすぎると気孔が開いても蒸散が起こらず炭酸ガスが吸収できない)
今回の実証実験結果から、簡易(市販)クーラーでは、約67㎥の密閉状態の試験温室を外気温より下げることはできなかった。クーラー単独での冷却を考えた場合、更に機能の高い冷房設備を検討する必要がある。
ドライミストの使用では、急激な温度低下(約11℃)を生じさせることが可能であることが確認されたが、同時にかなりの湿度上昇をもたらすことが分かった。また、湿度を下げるために換気を行うと、湿度は顕著に下がるが、温度も上昇する傾向が見られる。今回使用したドライミストは、間隔が15秒稼働、20秒停止、或いは連続稼働の2種類しかなく、噴出量の調整がうまくできない状況であった。もっと細かな調整が可能なドライミストを活用した湿度と温度との関係を再度確認し、最適な温湿度関係を調査する必要がある。今回の調査では、屋根付近での温度を下げるのに効果的だと推察される。
遮光ネットの冷却機能については、遮光なしの4号温室内に比較して、最大約7℃の温度低下が見られ、外気温よりは、約5℃高くなっていたが、試験温室内に朝陽及び西陽が入らない工夫をすることにより、更に外気温度に近づけることができると思われる。夏場の遮光を全面に実施することでかなりの断熱効果が期待される。また、夏場は照度が高いことから遮光を強くしても、試験温室内の照度は比較的明るいことも確認されたが、外の照度と内部の照度差を感じさせない工夫も必要である。8月26日晴れ、11:15時点での外気照度119,500Lux、試験温室の一番暗い場所(遮光ネット3枚)で885Luxであった。参考までに、事務所の照度基準(JIS Z91110)では750~1,500Lxuである。
シャワーカーテン型冷却装置は、約3℃の温度低下をもたらすが、同時に湿度の上昇も見られる。冷却に使用する水の温度冷やすなどすれば、更に温度を下げるものと推察される。しかし、ドライミストと同様に湿度の上昇を伴うことから来場者を対象とした冷却には、向いていないと考えられる。しかし、植物に対する飽差を考えた場合、湿度調整が比較的容易であること、コストが低いこと等から温室栽培には有効であると考えられる。継続した調査が望まれる。
最後に、体感温度は、温度及び湿度に加え気流速度も考慮に入れる必要があり、輻射熱もあるが、通常、気流があれば体感温度は下がる傾向にある。低コストで、大温室を冷却する場合には、輻射熱や温室効果が少ない効果的な遮光を行い、扇風機、スポットクーラー、ルームエアコン等のような気流を備えた冷却が効果的であると考えられた。
*1研究第二課
Copyright (c) 2015 Okinawa Churashima Foundation. All right reserved.