海洋生物の調査研究
野津 了*1・佐藤圭一*1
近年,特にIUCNレッドリストやCITES関連動物は、野生からの生物導入の制限や動物倫理の機運の高まりによって、動物園水族館における飼育動物の入手が困難となっている。財団においては、大型板鰓類等の国際的保護対象種を今後とも継続的に飼育展示するため、飼育下繁殖を積極的に実施すると同時に、飼育下での学術研究を促進し、積極的な成果の公表と他機関との連携強化を図る必要がある。そこで、ジンベエザメやマンタの繁殖生理研究について、最新の技術を導入し世界の水族館の指導的立場を構築すべく、積極的に調査研究事業を展開する。
美ら海水族館では、ジンベエザメの長期飼育に成功している。その間に、雄ジンベエザメは性成熟に達したと推定され、飼育下繁殖の成功に向けて期待が高まっている。一方、雌ジンベエザメは未だ性成熟の兆候は見られていない。現在、雌性成熟の兆候を掴むことを目的に定期的な採血を行い(図-1)、性ホルモン濃度の測定を行っている。
本年度は、雌未成熟個体の生殖状態を把握するために、過去に採取された未成熟個体(体長761 cm)の卵巣の組織学的観察および血中性ホルモン濃度の変化を調べた。その結果、卵黄形成している卵母細胞は観察されず、卵の発達・成熟には更なる時間を要することが推測された。また、血中の雌性ホルモン濃度は成熟雄のレベルにも達しておらず、内分泌学的にみても成熟に達していないことが確認された。現在、美ら海水族館で飼育されている2個体の雌も同程度のサイズであることから性成熟には更なる時間を要すると考えられる。ジンベエザメの繁殖生理学的な情報はほとんど報告されておらず、今回得られたデータが今後の性成熟を判断する上で基礎的な情報になると期待される。
美ら海水族館ではナンヨウマンタの長期飼育および世界初の飼育下繁殖に成功している(図-2)。この成功により、誕生時からの経時的な観察が可能となっている。2008年に当水族館にて誕生した雄ナンヨウマンタを対象にし、性成熟の年齢および繁殖周期を明らかにすることを目的とし行動・形態観察および定期的な性ホルモン濃度の測定を続けている。
本個体は、生後3年頃から繁殖行動である追尾行動が、生後5年で初めて交尾行動が確認された。また、生後3年頃には血中雄性ホルモン濃度が成熟雄と比較し同程度に達していたことから、本個体は生後3~5年で性成熟に達していた判断した。今回の事例は水槽内で繁殖した個体が性成熟に達した世界初の事例となる。
飼育下における板鰓類の生殖状態の把握および健康を管理する上で生理状態を反映するバイオマーカーの確立が求められている。血液サンプルは非致死的かつ経時的に採取可能であることからバイオマーカーを使用する際に有用だと考えられる。近年、次世代シーケンサーの普及により、網羅的な遺伝子発現解析が可能となっており新規バイオマーカーの探索も容易になりつつある。当財団においても外部研究機関と連携し、次世代シーケンサー駆使した板鰓類の血液トランスクリプトーム解析法を確立し、バイオマーカーの探索を行っている。
本年度は、トラフザメの血液から抽出したRNAを基に、De novoトランスクリプトームアセンブリを行い、70万本を超えるコンティグを取得した。今後は、性差および生殖状態で差が認められる遺伝子の探索を行い各種バイオマーカーの確立を試みる計画である。
板鰓類は多様な繁殖様式を示すことが知られている。そのため、生殖器官の構造は種によって大きく異なる。生殖器官の分化・発達・構造の違いと繁殖様式との関係を明らかにするため、様々な種の生殖器官を採取し比較観察している。
本年度は、卵黄依存型胎生と考えられるコギクザメ(Echinorhinus cookei)の妊娠個体を採取することができた(図-3)。コギクザメは世界的にみても捕獲例が少なく非常に貴重なサンプルである。また、本標本は片側の子宮しか機能しておらず(図-4)、子宮組織の発達の違いを観察する上でも貴重なサンプルとなる。現在、組織学的および微細構造学的な観察を中心に解析を進めている。
*1研究第一課
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