海洋生物の調査研究
岡慎一郎*1・宮本 圭*1・佐藤圭一*1
琉球列島は本邦屈指の魚種多様性を呈している。しかし、数多の研究者の手に余るほどの多様性が障壁となり、未だ解明されていない事実は多い。当事業では、琉球列島の魚類自然史研究の発展に寄与するため、以下の取り組みを実施した。
なお、これら一連の調査研究により、平成26年度は6報の学術論文が受理された。
当財団では琉球列島産の魚類標本の収集・管理を行っており、学術研究や普及・教育活動のツールとして活用している。
平成26年度には約300点の魚類標本が新たに登録された。このうち特筆すべきものとしては、沖縄島初記録となるホソイトヒキサギ(図-1)や国内初記録となるベラ科魚類(図-2:詳細は分析中)などがあげられる。
当財団は水族館事業に関連して、大型の板鰓類の標本を取得しやすい状況にある。この利点を活用し、板鰓類の分類、繁殖生態、初期発生等に関する研究を行っている。また、外部研究機関との共同研究として、オオメジロザメの淡水進入機能に関する生理学的アプローチや、サメ類の呼吸、動眼、摂食に関する機能形態学的調査も実施した。
海岸の汀線域や海草藻場などの魚類成育場としての重要性の把握および評価を目的とし、本部町備瀬(図-4)と名護市嘉陽で小型引き網を用いた継続的な採集調査(2回以上/月)を実施した。その結果、合計90種以上、約10000尾の仔稚魚が採集され、砂浜域からはニシン科やクロサギ科など、海草藻場からはベラ科、ブダイ科、ハゼ科などが多く確認された。しかし、多くの分類群において識別形質が未知のため、種の同定が困難であり、出現種ごとの季節変動等の検討は難しい状況である。現在、この状況を打開するため、種不明仔稚魚のうち、ベラ科・ブダイ科・フエフキダイ科を中心としてDNAバーコーディングによる種同定および識別形質の明確化に関する検討も並行して行っている。
当事業では、上記にあげたもの以外にも、以下の取り組みを実施した。
○遺伝的手法による在来フナの識別体制の整備 既往知見をもとに、固有の遺伝集団である琉球列島のフナ個体群と、これに混在する系外からの移入群を遺伝学的に識別できる体制を構築した(図-5)。
○環境DNAに関する共同研究 環境水中に存在するDNAの塩基配列情報から、同環境に生息する魚類を特定する革新的技術を開発するため、千葉県立博物館と共同研究を開始した。現在のところ、水族館展示水槽から得たわずかな飼育水から高精度で飼育魚種を特定できる段階に達しつつあり、野外調査への展開も併行している。
*1研究第一課
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