海洋生物の調査研究
河津 勲*1
ウミガメ類は、乱獲や混獲、護岸工事などにより産卵地である砂浜が消失したことにより、その資源状態は悪化している。ウミガメ類の保全のためには、その資源状態を把握するとともに、飼育下における繁殖を推進する必要がある。本事業ではこれらの問題に対応するため、以下の取り組みを実施した。
なお、本事業の成果として、12報の学術論文や報文が受理された。
当財団では沖縄本島の調査ボランティアの方々と連携し、沖縄本島の産卵状況の把握に努めている。その中で当財団は本部町、今帰仁村、名護市などの砂浜の産卵調査を担っている。平成26年度にはアカウミガメとアオウミガメの産卵が、それぞれ100回、10回程度確認され、昨年と比較し減少する傾向がみられた。また、国頭村楚洲において右後肢が欠損したアカウミガメの産卵を確認し、詳細についてはうみがめニュースレター100号に掲載されている(図-1)。
当財団は琉球大学のウミガメ調査サークル「ちゅらがーみー」と連携し、沖縄県一般からの情報を元に、海岸に死亡漂着するウミガメ類の調査を行っている。調査では現場に出向き、種の同定、解剖および計測などを行った。平成26年度にはアカウミガメ、アオウミガメおよびタイマイの50例ほどの死亡漂着を確認し、その中でも直甲長(甲羅の縦の長さ)が40~50㎝のアオウミガメが最も多かった。
漂着個体のうち生存していたウミガメにおいて、左前肢が欠損したヒメウミガメの幼体(直甲長:18㎝)が確認され、海洋博公園に保護収容した(図-2)。保護収容時には衰弱していたが、加温処置等による治療を試みた結果、健康状態は回復しつつある。
ウミガメの回遊経路を調査するにあたり、標識放流調査が最も利用される。この調査はウミガメに標識をウミガメの前肢や後肢の付根に装着し行われるのが一般的である。その標識には固有の番号と特定非営利活動法人日本ウミガメ協議会の連絡先が記載されており、再捕獲があった場合は当協議会経由で放流者に知らされることとなっている。当財団では、標識放流を全国のウミガメ調査を行っている団体および個人と連携し行っている。
この標識放流によって、平成25年度の産卵期に沖縄島の国頭村謝敷の砂浜で産卵したアカウミガメに標識を装着し、平成26年度に同場所で同個体が産卵したことを確認した(図-3)。これは産卵回帰年数(産卵期から次回産卵期までの年数)が1年だったことを示す。一般的にアカウミガメの産卵回帰年数は2~3年と考えらえていることから、本事例は非常に稀で、沖縄島では初記録となった。この詳細についてはうみがめニュースレター100号に掲載されている。
タイマイはIUCN(国際自然保護連合)のレッドリストにおいて絶滅危惧IA類に指定され、ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)においては付属書Ⅰ類に分類されており、ウミガメ類の中で最も希少性が高い。このような希少生物の繁殖を推進することは、種の保全という観点から、動物飼育施設を管理運営する当財団の使命である。海洋博公園のウミガメ館においては、アカウミガメ、アオウミガメおよびタイマイ3種の繁殖に成功し、当財団ではこれらの保全活動の一環で飼育下繁殖を推進しているところである。さらに、当財団ではタイマイの人工授精技術に関する研究を、元酪農学園大学の澤向豊博士と日本大学の鈴木美和博士との共同で取り組んできた。
現在まで、雄から安定的に精液を確保することに成功している(精液採取技術)。また、FSH製剤投与による排卵誘起技術や、オキシトシン投与による産卵誘起技術も開発した。さらに、雌の性成熟の開始年齢および直甲長についても明らかとし、短期間の発情期を判定する技術も確立した。これらの研究成果は5報の国際誌に掲載されている。
平成26年度ではこれらの技術を利用し、人工授精を試みたが成功していない。精液注入と排卵誘起のタイミングに問題があると考えている(図-4、5)。
*1研究第一課
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