1. 7)ヒカンザクラの開花調整に関する調査
沖縄美ら島財団総合研究所

亜熱帯性植物の調査研究

7)ヒカンザクラの開花調整に関する調査

阿部篤志*1・宮里政智*1

1.はじめに

本調査は、台風被害等により名護城公園のヒカンザクラ(Prunaus campanulata Maxim)が、深刻なダメージをうけ、開花状況がかなり悪くなっていること、また、名護市の花木に指定されているヒカンザクラを活用した観光産業に資する目的で、低温処理等による開花の実証実験及び気象データ等による開花予測を行った。なお、本業務は、名護市産業部商工観光課よりの業務委託として実施した。

図1-1 業務フロー
図1-1 業務フロー

2.材料と方法

1)供試材料

供試樹は、導入したヒカンザクラの中から、本部産の桜(A)を9本、今帰仁産の桜(B)を12本、名護産の桜(C)、4本を対象として実施した。供試したカンヒザクラの花芽状況(段階)は、表2-1のとおりである。

2)処理方法

各供試ヒカンザクラの開花状況(段階)にばらつきがあるため、開花を促進するための暖房温室、開花を遅らせるための冷蔵保管庫、また、露地圃場の3か所で管理を行い、経過を観察した。暖房温室での管理は、平成26年1月11日から、冷蔵保管庫での管理は平成26年1月15日から実施した。なお、測定期間中の各管理箇所の温度を表2-2、3に示した。

表2-1 供試樹の花芽状況
表2-1 供試樹の花芽状況

3)測定方法

供試ヒカンザクラの花芽を、各樹ごとに任意に5個特定し、花芽の伸長度(芽の長さ及び芽の直径)をノギスで測定した(写真2-1)。


3.実施結果

各供試樹の花芽の伸長量を次に示した。なお産地ごとに花芽等の生育状況(段階)が異なるため、各産地ごとに実施結果をまとめた。

  • 表2-2 冷蔵保管庫の温度 (単位:℃)
    表2-2 冷蔵保管庫の温度 (単位:℃)
  • 写真2-1 花芽(芽長、芽径)の測定部位
    写真2-1 花芽(芽長、芽径)の測定部位

1)本部産(A:9株供試)

表3-2 花芽の伸長量
 表3-2 花芽の伸長量

本部産の供試樹は、比較的花芽が多く樹形、樹勢等も良いものが揃っていた。表3-1に、花芽の蕾開までの伸長量(蕾開までの長さー開始時の長さ)を示した。伸長量は、暖房温室で管理した株の芽長(長さ)、芽径(直径)が、平均で3.85mm、1.94mmであった。露地圃場で管理した株の花芽は、3.49mm、1.15mmであった。冷蔵保管庫で管理した株の花芽は、平均で2.46mm、0.84mmであった。暖房温室の花芽の伸長量が高く、冷蔵保管庫の花芽の伸長量が低い傾向にあった(表3-2)。

2)今帰仁産(B:12株供試)

今帰仁産の供試樹は、樹齢が若く比較的に花芽がすくない木であった。表3-3に、花芽の蕾開までの伸長量(蕾開までの長さー開始時の長さ)を示した。

表 3-1 期間中の花芽伸長量( 期間中の花芽伸長量( A) (単位:mm)

表 3-3 期間中の花芽伸長量( 期間中の花芽伸長量( B) (単位:mm)

表3-4 花芽の伸長量
表3-4 花芽の伸長量

なお、花芽及び葉芽の区別がつきにくく、結果的に葉芽になった芽は、計算から除外した。伸長量は、暖房温室で管理した株の芽長(長さ)、芽径(直径)が、平均で5.70mm、2.46mmであった。露地圃場で管理した株の花芽は、平均で4.19mm、1.12mmであった。冷蔵保管庫で管理した株の花芽は、平均で2.94mm、0.81mmであった。暖房温室の株の伸長量が高く、冷蔵保管庫の株の伸長量が低い傾向にあった(表3-4)。

3)名護産(C:4 株供試)

表3-6 花芽の伸長量
表3-6 花芽の伸長量

名護産の供試株は、大株が多く、樹勢及び樹形が悪いものが多かった。株が大きく移動が困難なこと等から、露地圃場のみでの管理とした。表3-5に、花芽の出蕾までの伸長量(蕾開までの長さー開始時の長さ)を示した。なお、花芽の伸長量は、平均で3.09mm、1.74mmであった(表3-6)。

以上の結果から、花芽を持ったヒカンザクラの開花は、20度以上の暖房温室で花芽の伸長量(芽長及び芽径)が促進されること、また、低温にあてることで花芽の伸長量が抑制されることが示唆された。しかし、今回の冷蔵保管庫の温度が、10度以下であったこと等から、花芽に低温障害が見られた。これは、冷蔵保管庫へ入れるタイミングが遅かったのが原因と考えられる。今後、花芽が固い状態、花弁が展開しない状況等で、調査を行う等、また、ヒカンザクラの花芽に低温障害がでない温度(耐寒性)等を確認する必要がある。

表3-5 期間中の花芽伸長量(C)(単位:mm)


  • 冷蔵保管庫での低温障害(1月22日)
    冷蔵保管庫での低温障害(1月22日)
  • 冷蔵保管庫での低温障害(1月22日)
    冷蔵保管庫での低温障害(1月22日)
  • 冷蔵保管庫での低温障害後の葉芽展開状況(2月6日)
    冷蔵保管庫での低温障害後の葉芽展開状況(2月6日)
  • 冷蔵保管庫での低温障害後の葉芽展開状況(2月6日)
    冷蔵保管庫での低温障害後の葉芽展開状況(2月6日)

4.開花と気温の関係について

1)開花日および満開日の予測

那覇市におけるヒカンザクラの開花日・満開日の記録(沖縄気象台「生物季節観測一覧表(那覇)」)と、気温データ(気象庁「気温と雨量の統計」)の関係性を用いて、名護市での開花日・満開日の予測を試みた。尚、開花日・満開日と気温データ関連性については、2013年10月から2014年1月までの気温変化が比較的、類似している2008年から2009年までの気温データを参考に分析を行った(表4-1)。

表4-1の示すとおり、開花日については、日最低気温が20℃を下回る10月以降の累積日数が52日に達すると開花すると予測された。また満開日については、開花日以降の日最高気温が20℃を上回る日の累積日数が12日に達すると満開すると予測された。これらの累積日数をもとに2014年1月17日現在における開花日・満開日を予測した(図4-1、4-2)。尚、予測にあたり1月18日以降は2008年-2009年の日最高気温で累積日数を算出した。

その結果、今年度の名護市での開花予測は、開花日が2013年12月25日〜12/29日、満開日が2014年1月27日〜1月30日となった。

表4-1 年別の開花日・満開日、日最低気温及び日最高気温の累積日数(那覇市)

(※1):開花日及び満開日:沖縄気象台「生物季節観測一覧表(那覇)」より引用
(※2):気象庁「気温と雨量の統計」より引用

2)開花状況の定点観察の結果と気温の関係

(1)定点観察

名護城公園における開花状況を把握するために、2014年1月14日から2月11日にかけて同公園内の6地点(「名護さくら祭り」メイン会場となる名護城公園南口広場から名護神社までの階段:3地点、林道沿い:1地点、桜の園:1地点、天上展望台周辺:1地点)にて定点観察を行った(図4-3)。


図4-1 名護市における開花日の予測

名護城公園における開花状況を把握するために、2014年1月14日から2月11日にかけて同公園内の6地点(「名護さくら祭り」メイン会場となる名護城公園南口広場から名護神社までの階段:3地点、林道沿い:1地点、桜の園:1地点、天上展望台周辺:1地点)にて定点観察を行った(図4-3)。


図4-2 名護市における満開日の予測


図4-3 名護城公園におけるヒカンザクラ植栽木の開花状況観察位置図

定点観察は目視と写真記録で行い、樹冠または林冠全体に占める花の量の割合が10%未満を0点、10%以上〜30%未満を1点、40%〜60%未満を2点、70%〜90%未満を3点、90%以上〜100%を5点として、5段階評価で地点毎に評価した(表4-2)。その結果、2014年1月26日が18点と最も高く、1月28日は17点となったことから、名護城公園における満開日を1月26日から1月28日とした。さらに、1月26日の最高点(18点)に対する各月日の点数を相対的に百分率で算出し、その値を10で割り「分咲き」として表してみた。

また、名護城公園南口広場から名護神社までの階段の3地点の植栽木については、開花ピーク期でも樹冠または林冠全体に占める花の量の割合が40%〜60%未満と少なかったことから、季節風や台風等の影響、植栽マスの浅さや容積の小ささによる根詰まりや夏場の干ばつの影響などを受けていることが考えられた。一方で、季節風や台風の影響が少ない、または根を十分に張ることができる場所である、林道沿い・桜の園・天上展望台周辺の3地点では開花ピーク時には、樹冠または林冠全体に占める花の量の割合が60%〜100%と比較的多くの開花が見られた。


(2)開花状況の定点観察の結果と気温の関係

定点観察結果をもとに名護城公園における満開日を1月26日から1月28日とした場合の開花と気温の関係を図4-4に示す。

表4-2 名護城公園におけるヒカンザクラ植栽木の開花状況(定点観察結果)


図4-4 定点観察の結果をもとにした名護市(名護城公園)における満開日

開花日以降の日最高気温が20℃を上回る日の累積日数が、予測値の12日より2〜3日早く9〜10日に達すると満開することが示唆された。表3-1-1の2007年〜2013年の同累積日数の平均値が11日であることも加味すると、今回の結果は予測値の近似値であると思われる。以上より、「開花日以降の日最高気温が20℃を上回る日の累積日数」が、開花から満開までの過程に関係があることが示唆された。


参考文献
1)上里健次(1993)沖縄のカンヒザクラに関する調査研究 琉球大学農学部学術報告第40号
2)上里健次、比嘉美和子(1995)ヒカンザクラの開花期とその地域差に関する研究 琉球大学農学部学術報告第42号
3)宇根和昌(1995)リュウキュウカンヒザクラの開花特性に関する調査 熱帯植物調査研究年報16号
4)小杉清(1976)花木の開花生理と栽培 博友社
5)上里健次、安谷屋信一、米盛重保(2002)ヒカンザクラの開花の早晩性における地域間差、個体間差 琉球大学農学部学術報告第49号
6)川上皓史、山尾僚、盛岡耕一、池田博、池田善夫(2009)温度変換日数法を用いたソメイヨシノの開花調節 Naturalistae13
7)張琳、米盛重保、上里健次(2005)ヒカンザクラの開花時期,期間、花色濃度における固体間差と花芽形成に関する調査 球大学農学部学術報告第52号


*1研究第二課

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