1. 4)園芸品種作出に関する調査(リュウキュウベンケイ・コウトウシュウカイドウ)
沖縄美ら島財団総合研究所

亜熱帯性植物の調査研究

4)園芸品種作出に関する調査(リュウキュウベンケイ・コウトウシュウカイドウ)

佐藤裕之*1・端山武*1・高江洲雄太*1・具志堅江梨子*1・泉川康博*2

1.本研究の背景

沖縄県は日本の南西に位置し、亜熱帯で島嶼という特殊環境であるため他県に比べて植物の多様性が高く、また、日本では沖縄県にしか確認されていない貴重な植物も多い。沖縄県に自生する植物の4割は絶滅の危機に瀕しており、その保全に向けた研究が急務である。絶滅危惧種を保全する上でその植物の有用価値を見出すことは, 保全活動を推進する動機づけとして重要となる。リュウキュウベンケイとコウトウシュウカイドウは国内では沖縄にのみ自生する植物であり、前者は野生絶滅、後者は絶滅危惧Ⅱ類に指定されている(環境庁自然環境局野生生物課, 2000)。リュウキュウベンケイの属するカランコエ属とコウトウシュウカイドウの属するベゴニア属は花卉園芸植物として重要な分類群であり、多くの原種が交配育種により園芸化されてきた。しかし、リュウキュウベンケイとコウトウシュウカイドウは園芸植物として未利用の種である。本研究ではリュウキュウベンケイとコウトウシュウカイドウの保全に向け、交配育種素材としての有用性を調査した。

2.リュウキュウベンケイの交配育種利用に向けた研究

1)緒言

以前までの調査結果で、リュウキュウベンケイを用いた交配育種ではベニベンケイとの交配により切り花向けの優れた高性品種が誕生している。現在は選抜した2品種について品種登録済みであり、さらに5品種を品種登録申請中である。

リュウキュウベンケイ雑種を切り花用品目として普及させていくためには、切り花にしたときの特性を調査する必要がある。特に花もちの長さは切り花の商品価値を決める重要な要素である。本研究では、リュウキュウベンケイの花もちの長さを明らかにすることを目的として、様々な条件下における切り花の経時変化を調査した。

2)材料及び方法

植物材料はリュウキュウベンケイとカランコエ・ブロスフェルディアナの種間雑種である‘ちゅららダブルピンク2’を用いた。花序のうち分枝3回目の花が開花した株を採花し、切り花を各条件下のもと、室内(気温20℃前後、約10時間蛍光灯照射下)にて維持し経時調査を行った。条件は以下のとおりである①葉をつけたまま、水を入れたフラスコにさす。②葉をつけたまま、水の入っていないフラスコにさす。③葉をすべてはずし、水を入れたフラスコにさす。④葉をすべてはずし、水の入っていないフラスコにさす。調査は花序全体と個々の花について行った。花序全体の調査については10日おきに写真記録を行った。個々の花の調査については採花日に開花したものについて目視でしおれが確認された日を記録した。各試験区とも切り花を3本用意し、それぞれ3花ずつ確認を行った。

3)結果

全ての試験区においておおよそ同じ経時変化を辿り、試験区間で大きな差は出なかった。

花序全体の調査では、試験開始後20日目でほぼ満開となり、30日目にはしおれた花が散見され、40日目には観賞価値が無くなるほどにしおれた花が増加した。

個々の花の調査ではすべての試験区においておよそ30日で花のしおれが確認された。

表1 葉、水の有無と個々の花の開花からしおれるまでの期間

No. 葉の有無 水の有無 開花期間(日)
24±4.2
- 28±3.1
- 29±3.0
- - 25±1.6

4)考察

本調査の結果、リュウキュウベンケイ雑種は切り花にしても1ヶ月程度花持ちする事が明らかとなった。これは一般的な切り花の花もちが10日程度であることに比べ、極めて長いものである。

また、花もちは切り口を水に浸さない状態に置いても維持された。一般的な花では数分のうちにしおれが出て観賞価値が消失するが、リュウキュウベンケイ雑種では長期間水のない条件下に置いてもしおれが確認されなかった。この原因としてカランコエが乾燥した環境に強い多肉植物の一種であり、蒸散による水分の損失が少ないためと考えられる。

  • A
    A
  • B
    B
  • C
    C
  • D
    D
  • E
    E

写真-1 異なる条件下におけ切り花の経時変化。各写真左から①葉 +水+、②葉 +水-、③葉 -水+、④葉 -水-採花後の経過期間は A.0A.0A.0日、 B.10B.10B.10B.10日、 C.20C.20C.20C.20日、 D.30D.30D.30D.30日、 E.40E.40E.40E.40日


リュウキュウベンケイ雑種の葉は肉厚で多くの水分を含んでいるため、水のない条件下における貯水槽の役割を果たすと仮定したが、40日経過しても②葉+水-と④葉-水-の間で花の状態に違いが現れなかったことから、葉が花もちに影響を及ぼすことはないことが明らかとなった。

水のない環境下で1ヶ月程度も花もちする特性は切り花の新たな利用用途を創出すると考えられる。水漏れが嫌厭されるデスク上や車内、ボウフラの発生が問題となっている墓地、壁面装飾など、今までは切り花を利用できなかった場所での装飾が可能となる。

今後は他の品種における花もちの調査を行うと共に、本研究結果をもとに市場性調査を行い、普及に向けた苗生産、作付方法の検討を行うことを予定している。

3.コウトウシュウカイドウの交配育種利用に向けた研究

以前までの研究で、コウトウシュウカイドウとB. chloroneuraの雑種(以下、旧雑種という)とB.nigritarrumの交配に成功し、15個体の雑種(以下、新雑種という)を得た。両親ともに異なる葉模様、葉色であるため、新雑種の葉模様、葉色は多様化すると考えられる。

今年度は昨年度作出した新雑種を養生し、形質確認を行ったところ、母親であるB.nigritarrum由来の銀色の不規則な模様が確認された。一方、父親である旧雑種由来の黒色は確認されなかった。ベゴニアの葉は環境条件と生育段階によって葉色に変化が生じるため、栽培環境をかえるなどにより父親の形質が現れる可能性がある。

  • A
    A
  • B
    B
  • C
    C
  • D
    D

写真-2 交配親の葉(A)と雑種の形態(B-C)写真Aの左側が母親のB.nigritarrum、右側が父親のコウトウシュウカイドウとB. chloroneuraの雑種。写真B-Cはその雑種。


観葉植物として普及しているレックスベゴニアは鮮明な赤色の葉をもつ品種が多数存在するが、これらはみな銀色の葉をもつ原種と黒色の葉をもつ原種の交配である。本研究で用いた交配親も同様の葉色を持つことから、新雑種は鮮明な赤色の葉をもつことが期待される。

今後は引き続き新雑種の形質確認を行うとともに、さらなる交配を試みることを予定している。

引用文献 1) M.C, Tebbitt, 2005. Begonias: cultivation, natural history, and identification. Timber Press, Portland. p 272.
2) 環境庁自然環境局野生生物課, 2000. 改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物8 植物I(維管束植物). 財団法人自然環境研究センター, p 660.


*1研究第二課  *2千葉大学園芸学研究科植物細胞工学研究室

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