海洋生物の調査研究
山本広美*1
サンゴ礁生態系は、生物多様性や生産量が特別に高い生態系のひとつとして知られおり、それを支える生物群としてサンゴ類や植物プランクトンと並んで海藻類(及び海草類)が挙げられる。しかし、沖縄県下の海洋生物相は、サンゴ類や魚類などの動物については比較的報告があるが、海藻類についてのまとまった調査はほとんど行われていないのが現状である。当財団では、平成18年度より水族館前面海域(備瀬)にみられる海藻類や海草類について海藻目録及び主な出現種の海藻標本作成を継続して行っている。
沖縄島の中でも北部地域では学術的、および環境調査としての海藻相調査がほとんど行われていない。特に、本部半島は、国指定天然記念物である塩川にシオカワモッカ(準絶滅危惧:沖縄県・環境省)の生育がみられることをはじめ、屋我地島の干潟にはかつてクビレミドロ(絶滅危惧Ⅰ類:沖縄県・環境省)の生育がみられたことなど、特異的な海藻類の分布が知られているにもかかわらず、海藻相など全体的には不明の点が多い。
そこで海洋博公園沿岸を含む本部半島周辺のサンゴ礁に生育する海藻類・海草類の種構成や分布特性等を明らかにする標本目録(インベントリ)調査を実施した。
沖縄県北部西海岸(国頭村~大宜味村)及び周辺離島(伊平屋島、伊是名島)で実施した。沖縄県北部及び周辺離島では採取場所を変えて各3地点で行い、計9地点で調査を行った。(写真1)。
海草藻場及びその周辺に12の方形枠(2m×2m)を設け,種数と被度を記録した。また、各地点の調査範囲に沿って潜水目視し、確認される海藻類を可能な限り同定し、種別被度(%)を記録し、写真撮影を行った。同時に水温、水深、底質(着生基質)を記録し、各地点の概観を撮影した。
各地点で確認された海藻類及び海草類について、標本作成対象種を選定したのちに方形枠周辺より採取し、標本作成を行った。藻体がもろいもの、基質に強く固着しているもの、基質を覆うもの(無節サンゴモ類など)については、ハンマーを用いて着生基質ごと採取した。採取した標本試料は、地点毎に海水で満たしたジッパーつきビニール袋に入れ、それをクーラーボックスに収納して研究室まで持ち帰った。また液浸標本の固定液に使用する海水をポリタンクに別途採水した。海藻標本は、地点ごとに海藻1種あたり、さく葉標本1本以上、液浸標本1本を作製した。ただしさく葉標本作製が不可能な種については、乾燥標本とした。
確認した海藻類は、4門5綱20目40科75属、合計126種類(変種、品種、不明種含む)であり、緑藻類44種類、珪藻類1種類、褐藻類20種類、紅藻類58種類、藍藻類3種類となった。
また、海草類は被子植物門単子葉植物綱オモダカ目トチカガミ科2属2種、ヒルムシロ科1属1種の合計3種が確認された。
本年度、標本数は151検体となった。新たに標本作成した海藻は、緑藻綱8種(ヘライワズタ、ヒメシダズタ、イチイズタ、コテングノハウチワ(写真2)、サボテングサ、ヒメイチョウ、ハゴロモ、ハネモ属)、褐藻綱2種(フクリンアミジ、シマオオギ)、紅藻綱13種(フクロガラガラ、ヒメシコロ、ヒライタイシモ、カワライシモ、ナミイワタケ、チャボキントキ属、ツカサアミ、イワノカワ属(和名なし;Peyssonnelia capensis)、チリボタン属、アツカワハナノエダ、ハナサクラ、エツキアヤニシキ、スジナシグサ)である。
これまで得られた結果は、沖縄島周辺の環境保全策や普及啓発のための資料(展示や図録の刊行等)として活用するため、沖縄島周辺海域の海藻類や海草類について海藻目録及び主な出現種の海藻標本の作成を継続する。
今年度、調査で得られたデータを一般に広く活用してもらうためにWebサイトを作成した。内容は一般向けの海藻の紹介と、専門家向けの結果公開に大きく2つに分けた。一般向けのページはアニメーション(写真3)とイラストを使用して海藻の生物・生態学的な側面をわかりやすく紹介するよう工夫した。
専門家向けのページでは海藻・海草類の生態写真、標本写真を航空写真画像とリンクさせ、どこでどのような海藻が確認されたか一目でわかるようにした(写真4)。今後も、継続的な調査研究を通して環境教育につながる積極的な活動を展開したい。
*1研究第一課
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