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  1. 3)新しい園芸植物の開発・普及・展示に関する調査研究
沖縄美ら島財団総合研究所

亜熱帯性植物の調査研究

3)新しい園芸植物の開発・普及・展示に関する調査研究

徳原 憲*1・端山 武*1・具志堅江梨子*1・比嘉和美*1・具志堅雪美*1・佐藤裕之*1

1.はじめに

沖縄県では温暖な気候をいかした熱帯性作物の生産や、熱帯花卉類を用いた観光施設運営を行う事で本土と差別化を計っている。しかし、沖縄県の環境に適する品目は限られており、その拡充が期待されている。
本調査研究では観光・地域産業振興を目的として、未利用遺伝資源等を用いた新しい園芸植物を開発すると共に、優良品種の普及に向けた無病苗等の大量増殖を行うものである。

2.リュウキュウベンケイを用いた調査研究

写真-1令和3年度に選抜した優良個体(一例)
写真-1令和3年度に選抜した優良個体(一例)

写真-2 県外における生産試験の様子
写真-2 県外における生産試験の様子

写真-3 県外生産品(左)と県内生産品(右)に見られた花色の違い
写真-3 県外生産品(左)と
県内生産品(右)に見られた花色の違い

リュウキュウベンケイは沖縄県に自生するカランコエ属の植物である。カランコエ属は花卉園芸植物として重要な分類群であり、いくつかの原種が交配育種により園芸化されてきた。しかし、リュウキュウベンケイは観賞価値が高いにもかかわらず、育種素材として使われてこなかった。リュウキュウベンケイは既存の品種にない背丈の高い形質を有する事から、切花用品種の育種素材として有用であると考えられた。
千葉大学と共同でリュウキュウベンケイの育種に取り組んだ結果、沖縄の環境に適する切花用品種を開発するに至った。これらは「ちゅらら」シリーズと名づけられ、平成29年2月までに7品種を品種登録するに至った。
「ちゅらら」シリーズは新規花卉品目として地域産業への貢献が期待された。平成27年度より沖縄県農林水産部や県内出荷団体等と共同で栽培技術体系の構築を行い、平成28年度には収穫物を県外出荷するに至った。しかし、出荷物に輸送痛み (花首の曲がり、花の押しつぶれなど) が発生する問題が生じた。そこで、輸送方法の見直しを図るとともに、輸送性の高い品種の開発を行った。その結果、輸送痛みは軽減され、市場取引価格の向上が確認された。令和元年度には輸送性の改善された3品種を品種登録出願し、これらを地元の農家で生産することで産業振興につなげつつ、収穫物の一部は海洋博公園で展示をすることで、観光産業振興につなげている。

1)新品種の開発
平成29年度より色幅の拡大を目的とした交配育種を開始した。令和3年度は新たな実生の選抜と過年度までに選抜した優良系統のさらなる絞り込み、特性調査を行った。その結果、赤色系等を含む優良個体が複数選抜された (写真-1)。本年度は一部品種を品種登録申請まで実施する予定であったが、環境により発色が不安定となる品種の存在が明らかとなったため (後述)、これを見送った。
平成28年度から薬剤とプロトプラスト培養技術を用いた突然変異育種にも取り組んでいる。令和3年度は前年度に選抜した15個体の形質の安定性について評価を行った。その結果、再現性が確認された。今後は主力品種への変異処理実施を検討していく。

2)普及
沖縄県内における生産に限って5年間普及活動に取り組んできたが、輸送性や周年生産に関する課題により、十分な需要・生産拡大に至らなかった。そこで、陸路輸送とシェード栽培による課題克服に向け、県外における生産試験を県内生産と並行して実施した (写真-2)。その結果、品種による差異はあったものの市場出荷できる品質の収穫物が得られた。収穫物の一部を東京の市場へ出荷したところ、輸送痛みの改善等により県内生産品より高値がついた。しかし、花色が県内生産品と比較して大きく変わる問題が生じたため (写真-3)、原因究明に向けた調査に取り組む。

3)展示
1月22日~3月31日に実施した美ら海花まつりにて、ちゅらら新品種を展示利用した。水が不要な切り花という特徴を生かし、潅水に係る労力を低減しつつ、効果的に展示を実施することができた。

3.ダイサギソウを用いた調査研究

写真-4 ダイサギソウの花
写真-4 ダイサギソウの花(左)と4倍体と
2倍体の交配で得られた培養中の苗(右)

ダイサギソウは白色の花を穂状に多数咲かせる沖縄県在来のラン科植物である (写真-4)。切花用の品種化を目指し、花持ち等を改善すべく、倍加 (不稔化) の試験を実施した。今年度は得られた倍数体の開花を目指し栽培した。50個体ほど開花し再度フローサイトメータで倍数体の確認を行ったところ2倍体、キメラ個体などがあり、最終的に20個体の4倍体株となった。この株に2倍体株とで交雑し得られた種子の播種を行い、現在、育成中(写真-4)。次年度は得られた苗の3倍体株を確認 し馴化育成を行う。

4.外部評価委員会コメント

産業振興に関してはちゅららシリーズにおける新品種の開発と現場への普及やサツマイモ、島野菜の優良種苗供給など予想以上の成果が得られていると評価できる。公園管理に関しても、ちゅららの省エネ展示などで予定通りの貢献ができているが、環境保全に関しては直接関連する明確な成果が得られてはいない様である。これに関しては「採集圧の低減」などという評価のしにくい目標ではなく、別な視点からの目標設定をした方が良いのではないか(三位顧問:千葉大学 名誉教授)。
ちゅららの切り花生産ですが、できれば県特産花卉として独占的に、さらなる生産振興を図っていただきたい (岐阜県におけるフランネルフラワーのように)。県外での生産物が市場で沖縄より高い評価を得たとのこと。県内生産での問題点の掘起こし、輸送問題等、再度検討してほしい。また、栽培下での花色変異がみられたとのこと、より安定した固定品種の開発を進めていただきたい。ちゅららの普及、生産拡大には、その切花としての利用法に関する開発研究も必須と思われる (花店等、利用者との共同開発など)。新たなダイサギソウの育成に期待している(上田顧問:ぎふワールド・ローズガーデン 理事)。


*1植物研究室

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