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  1. 7)造礁サンゴ等の生態系基盤モニタリング調査
沖縄美ら島財団総合研究所

海洋生物の調査研究

7)造礁サンゴ等の生態系基盤モニタリング調査

岡 慎一郎*1

1.はじめに

造礁サンゴ類は南西諸島の生物多様性を支える重要な構成要素であり、水産業や観光業などとも関わりが深い一方で、白化などによる消長が生じる不安定な要素もはらんでいる。このような生態系の基盤生産者のモニタリング調査は、生態系の理解だけでなくその管理や変動の予測にきわめて重要な情報となる。
海洋博公園地先は「沖縄県の重要サンゴ群集」として指定されたエダコモンサンゴ群集が存在し、さらに礁斜面のサンゴ群集は沖縄本島内では優れた回復力を持っているとされる。そこで当財団ではサンゴ群集の現況の把握、変動の傾向や要因を明らかにすることを目的として、昭和63年から海洋博公園周辺のサンゴ群集のモニタリング調査を実施している。今年度は以下の項目でこれらサンゴ群集の現況把握を目的としたモニタリング調査を実施した。特に本年度からは魚類群集も調査対象に追加し、サンゴ群集との関連性に関する検討も開始した。

2.フォトトランセクト調査

図-1 調査対象範囲
図-1 調査対象範囲
写真-1 フォトトランセクト調査の状況
写真-1 フォトトランセクト調査の状況

図−1に示した5箇所に計10本のトランセクトラインを設け、一定の間隔に設置した方形枠(40cm×60cm)内におけるサンゴ被度と構成比を記録した(写真-1)。今年度は例年と同様、サンゴ被度は大半の地点で増加傾向にあり、特にミドリイシ科にその傾向が顕著であった。しかし、備瀬北および備瀬西の被度はハナヤサイサンゴの減少により被度合計値もやや低下していた。今年度は白化現象やオニヒトデでの食害などといったサンゴ減少の直接的な要因となる現象は生じておらず、今回認められたハナヤサイサンゴの減少は自然の推移の範囲にある可能性が高いと考えられる。今後の経過観察によりその要因や動態についての詳細が明らかになると期待される。

3.定着版調査

サンゴの加入状況を把握するため、3区域に定着版(タイル)を設置し、約1か月後にそれを回収・分析することで、平成31年度におけるサンゴの加入状況を検討した(写真-2)。その結果、稚サンゴ定着数は備瀬周辺が多いといった例年通りの傾向のほか、いずれの地点も過年度調査の変動の範囲内にあり、特筆すべき変動は認められなかった。

4.魚類調査

サンゴ群集とそれに付随する魚類群集を把握し、両者の関連性を明らかにすることを目的として、3区域についてフォトトランセクト調査と同じ調査定線上に出現した魚類を目視観察により記録した(写真-3)。
その結果、25科160種5408個体の魚類を確認した。種数・個体数とも最も多かったのはスズメダイ科で、次いでベラ科、チョウチョウウオ科と続き、西太平洋域のサンゴ礁域における一般的な魚類群集であった。また、統計解析の結果、魚類の群集構造とサンゴ類の形状の間に関連性が認められた。今後の調査データの蓄積により、その関連性の詳細が明らかになると期待できる。

  • 写真-2 サンゴの定着板(上:設置状況、下:回収した定着板。白い点が定着した稚サンゴ)
  • 写真-2 サンゴの定着板(上:設置状況、下:回収した定着板。白い点が定着した稚サンゴ)
写真-2 サンゴの定着板(右:設置状況、左:回収した定着板。白い点が定着した稚サンゴ)
  • 写真-3 魚類調査状況
    写真-3 魚類調査状況

5.外部評価委員会コメント

サンゴ礁生態系モニタリングについてはこれまでに長期間にわたる調査データが集積されていることと推察される。その際、無機環境と造礁サンゴの動態だけではなく、同地点における魚類群集や植物群集等との関連で議論されることが必要で、より有意義な議論が期待される。(吉野顧問:元琉球大学准教授)


*1動物研究室

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