スマートフォンサイトはこちら
  1. 5)イルカの健康管理に関する調査研究
沖縄美ら島財団総合研究センター[美ら島研究センター]

海洋生物の調査研究

5)イルカの健康管理に関する調査研究

植田啓一*1・柳澤牧央*2

1.はじめに

現在、野生からの導入が困難になっているイルカの疾病に関して、的確な診断および治療が実施可能となるよう、診断技術や治療等の健康管理技術の維持と開発に取り組んでいる。特に今年度は疾患の確定診断技術向上として、画像学的診断、遺伝子学的診断、血清学的診断に積極的に取り組み成果をあげる事が出来た。現在それら確定された疾患に対しては治療を実施した上で経過観察を行っている。
また新興真菌感染症調査においては、クジラ型パラコクシジオイデス症の野生下での保有率に関しても調査を開始した。引き続き調査研究により得られた成果を活用し、飼育動物の健康管理技術を開発することで野生生物の保全に貢献し、持続的なイルカ飼育に繋げるべく調査研究を展開している。

2.鯨類のCT検査による骨疾患の確定診断

写真-1 名古屋港水族館で使用した移動式車載CT
写真-1 名古屋港水族館で使用した移動式車載CT

鯨類の骨疾患は比較的頻度の高い疾病であるが、血液検査では特異的な指標がないため見逃しやすい。確定診断には、レントゲンやCT検査が必要であり、死亡後も骨の状態を確認する作業が煩雑なため、多くの水族館で見逃されてきている疾患である。
当財団では、世界に先駆けてCT画像診断装置を導入し、骨疾患、具体的には、細菌性骨炎または骨髄炎の確定診断の症例の確定診断技術を確立し、その結果を学会、論文等で発信してきた。本年度も、外部診療を含め、新たに4症例の骨疾患を診断した。そのうち2症例は、頚椎異常が確認され、いずれも体躯の湾曲を併発しており、これまで原因不明であった、イルカの体躯湾曲症の原因解明の手がかりとなると考えられる。特に1症例は、月齢18か月の個体で、先天的疾患と思われる症例であった。
名古屋港水族館より依頼されたCT検査では、CT検査機器の無い機関での検査であったため、移動式車載CTを使用して実施した。搭載している車両や機器の関係上、体重180kg以下、体長250cm以下との制限はあるものの、バンドウイルカの新生仔や年齢2歳以下の個体では、十分に撮影が可能で、繁殖個体の骨疾患の早期診断を可能にする手段であることが実証された。

3.飼育イルカの生検により確認された Brucella ceti 症例について

飼育バンドウイルカにおいて、2018年5月に、尾柄部体側に膨らみを確認したためCT撮影を行った。その結果、腰椎椎体および横突起に著しい変性を確認した。その後、罹患部の生検を実施し培養を行った結果、Brucella 属菌が培養された。本菌は専門機関でしか種同定が出来ないため、農研機構動物衛生研究所に同定検査依頼を行った。16srRNA遺伝子領域の塩基配列解析およびMultilocus sequence typing (MLST)解析の結果、Brucella cetiによって構成されるSequence type (ST)27と分類された。  本菌は、西太平洋沿岸のアジア諸国では初めて分離された菌で、学術的にも価値の高い症例である。また、本個体のブルセラ菌に対する血清抗体価を測定した結果、2009年の搬入時から高値を示しており、野生下で保菌していた可能性が高いことが示唆された。

  • 写真-2 B. ceti 罹患個体の患部のCT画像
    写真-2 B. ceti 罹患個体の患部のCT画像
  • 写真-3 B. <i>ceti</i> 罹患個体の患部病理写真
    写真-3 B. ceti 罹患個体の患部病理写真

4.新興真菌感染症調査

現在鯨類において、世界中で確認が多数報告されている新興真菌感染症としてクジラ型パラコクシジオイデス症(以下PCM-C)がある。特徴としては、難治性の慢性肉芽腫性ケロイド状皮膚炎で主な感染経路は接触感染で,我が国でも3症例が報告されている。今回,琉球大学との共同研究により、人獣共通感染症の観点から、PCM-Cの原因菌と近縁菌種である高度病原性真菌症のヒストプラズマ症について血清学的検査による高度病原性真菌間での交差反応を調査した。ヒストプラズマ症原因 Histoplasma capsulatum 6菌株との交差試験を行った結果、北米由来の1株にのみPCM-Cとの交差反応が確認された。 ヒストプラズマ症はヒトや動物で国内感染が報告されているが、交差反応が生じたHistoplasma capsulatum の遺伝子型は北米に流行する遺伝子型の限られた株である。そのことより今回実施した血清学的試験は、抗体保有率試験に応用出来る事が判明した。引き続き、PCM-Cについては、国内での蔓延状況を把握するために、パラフィン包埋されたイルカ症例由来菌体を抗原として、免疫組織学的手法による野生下や飼育下イルカの抗体保有率を含めて調査中である。

5.他園館への技術指導

香港オーシャンパークでは、獣医チームと飼育チームが協力して板鰓類の受診動作訓練を用いた採血、エコー検査を行っている。しかしながら水中ハウジングを所有していないため、今回当財団のエコー機器及び水中エコーハウジングを持参し、イヌザメ及びトラフザメ、オテンジクザメの水中での検査手技を指導した。

イルカの治療課題として、内視鏡検査での主胃へのアプローチと背びれの採血ポイント確認があった。その両方において、受診動作訓練における内視鏡検査の指導及び補助、イルカの実際の背びれと標本を用いての採血ポイントの指導を実施した。来年春にはCTの導入等を控えているため、さらに情報交換を密に行い、お互いの技術向上に向けての協力を行っていくことを確認した。

  • 写真-4 トラフザメの水中エコーの様子
    写真-4 トラフザメの水中エコーの様子
  • 写真-5 右側臥位で内視鏡実施(主胃アプローチ)
    写真-5 右側臥位で内視鏡実施(主胃アプローチ)

6.外部評価委員会コメント

アクティビティの高さは評価できる。普及効果も十分あるが、筆頭著者での論文発表を目指してもらいたい。
(加藤顧問:東京海洋大学名誉教授)


*1動物研究室 *2魚類チーム

ページTOPへ