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ホーム総合研究センター平成27年度 事業年報 > 7)やんばる地域希少植物生育状況調査

沖縄美ら島財団総合研究センター[美ら島研究センター]

亜熱帯性植物の調査研究

7)やんばる地域希少植物生育状況調査

阿部篤志*1

1.はじめに

本調査は、環境省那覇自然環境事務所事業「平成27年度やんばる地域希少植物生育状況調査業務」の一環で、(一財)沖縄美ら島財団総合研究センターが受託した事業である。
沖縄島北部のやんばる地域の固有種であるオキナワセッコクとクニガミトンボソウは、平成 14 年に絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法) に基づく国内希少野生動植物種に指定され、採取や譲渡等の規制により保全が図られている。本調査は、両種の生育状況及び自生地の状況等を把握し、それらの結果を踏まえ、両種の保護施策検討のための基礎資料を作成することを目的として実施した。

2.調査概要

調査は平成27年10月25日から平成28年3月5日に行った。
調査対象種は、環境省版及び沖縄県版レッドデータブックにおいて絶滅危惧IA類のオキナワセッコク(Dendrobium okinawense Hatusima et Ida)、クニガミトンボソウ(Platanthera sonoharai Masam.)とした。 調査箇所については、関連文献や報告書による情報収集及び事前に両種が自生している可能性の高い地域を有識者等にヒアリングを行い選定し、国頭村及び大宜味村においてオキナワセッコクの調査エリアを3箇所(A,B,C)、クニガミトンボソウの調査エリアを4箇所(D,E,F,G)設定した(米軍施設内を除く)。尚、両種の希少性に配慮し自生地の地名は控える。
調査方法は、生育状況を把握するために、オキナワセッコクでは、位置情報(GPSを使用)、地形(目視)、斜面方位(クリノメーターを使用)、着生樹種(目視)、着生樹の樹高(測稈を使用)及び胸高直径(巻き尺を使用)、着生高(測稈を使用)、着生数(目視及び双眼鏡を使用)、開花結実状況(目視)、生育状況写真(デジタルカメラを使用)を記録、クニガミトンボソウでは、 位置情報(GPSを使用)、地形(目視)、傾斜角(クリノメーターを使用)、生育環境(目視)、植生(目視)、生育範囲(巻き尺を使用)、生育数(目視及び双眼鏡を使用)、開花結実状況(目視)、本種以外の渓流植物(目視)、生育状況写真(デジタルカメラを使用)を記録した。尚、調査時期については、両種を目視で確認しやすい両種の開花・結実期とした。

3.調査結果

1)オキナワセッコクの生育状況

(1)調査エリアA[国頭村]
9地点で40個体を確認した。標高は273m〜391mの範囲で、斜面中部で多く確認できた。着生樹が生育する斜面の方角は様々であった。着生樹種はイタジイ(4本;樹高8.9m〜16.5m,胸高直径51.8cm〜67.8cm)、イスノキ(4本;樹高11.2m〜14.7m,胸高直径27.4cm〜48.6cm)、オキナワウラジロガシ(3本;樹高14.0m, 胸高直径61.5cm)が多く、イジュ、ハゼノキ、エゴノキにおいても確認した。着生高は3.2m〜12.0mであった(図-1-1-1〜1-1-3)。


  • 図-1-1-1 イジュに着生するオキナワセッコク(左:イジュ,右:オキナワセッコク開花株)


  • 図-1-1-2 イタジイに着生するオキナワセッコク(左:イタジイ,右:オキナワセッコク開花株)


  • 図-1-1-3 リュウキュウモクセイに着生するオキナワセッコク(左:リュウキュウモクセイ,右:オキナワセッコク開花株)


図-1-2-1 イスノキに着生するオキナワセッコク(左:イスノキ,右:オキナワセッコク)

(2)調査エリアB[国頭村]
5地点で17個体を確認した。標高は316m〜356mの範囲で、斜面上部及び平地で多く確認できた。着生樹が生育する斜面の方角は様々であった。着生樹種はイスノキ(4本;樹高13.7m〜14.5m,胸高直径42.5cm〜46.0cm)、イタジイ(3本;樹高10.3m〜14.6m,胸高直径65.4cm〜77.7cm)が多く、リュウキュウモクセイ、フカノキにおいても確認した。着生高は4.8m〜11.8mであった(図-1-2-1)。

(3)調査エリアC[国頭村]
16地点で90個体を確認した。標高は333m〜481mの範囲であった。着生樹種はイスノキ(19本;樹高11.2m〜14.7m,胸高直径27.4cm〜48.6cm)、イタジイ(12本;樹高8.9m〜16.5m,胸高直径51.8cm〜67.8cm)が多く、オキナワウラジロガシ、フカノキ、イジュ、オオシイバモチ、サカキ、シキミ、トキワガキ、ニッケイ、ヒメユズリハ、ヤンバルアワブキにおいても確認した。着生高は3.3m〜10.8mであった(図-1-3-1〜1-3-4)。


  • 図-1-3-1 オオシイバモチに着生するオキナワセッコク(左:オオシイバモチ,右:オキナワセッコク)


  • 図-1-3-2 イタジイに着生するオキナワセッコク(左:イタジイ,右:オキナワセッコク結実株)


  • 図-1-3-3 オキナワウラジロガシに着生するオキナワセッコク(左:オキナワウラジロガシ,右:オキナワセッコク)


  • 図-1-3-4 サカキに着生するオキナワセッコク(左:サカキ,右:オキナワセッコク)

2)クニガミトンボソウの生育状況

(1)調査エリアD[国頭村]
2地点で16個体を確認した。2地点ともに渓流帯(流れが速いあるいは洪水時に水没する河川)の岩場で確認でき、風当たりが弱く、日当りは中陰、土壌は湿っている環境であった。1地点は標高が166m、生育範囲が12㎡、成株が2株、幼株が5株であった(図-2-1-1〜2-1-3)。周辺15㎡内の植生は、高木層と亜高木層が出現せず、低木層ではヒサカキが優先し(樹高1.5m前後,植被率15%)、草本層ではサイゴクホングウシダが優先していた(草丈5〜10cm前後,植被率50%)。クニガミトンボソウ以外の渓流植物は6種(サイゴクホングウシダ、リュウキュウツワブキ、ナガバハグマ、ケラマツツジ、ヒメタムラソウ、オキナワヒメナキリ)出現した。別の1地点では標高が157m、生育範囲が15㎡、成株が8株、幼株が1株であった。周辺15㎡内の植生は、高木層と亜高木層が出現せず、低木層ではススキが優先し(草丈1.3m前後,植被率20%)、草本層ではサイゴクホングウシダが優先していた(草丈5-10cm前後,植被率30%)。クニガミトンボソウ以外の渓流植物は6種(サイゴクホングウシダリュウキュウツワブキ、ヒメタムラソウ、オキナワヒメナキリ、チャボチヂミザサ、クニガミサンショウヅル)出現した。


  • 図-2-1-1 クニガミトンボソウの生育環境(渓流帯)


  • 図-2-1-2 クニガミトンボソウの生育地点(湿った渓岩)


  • 図-2-1-3 クニガミトンボソウの成株(開花状況)

(2)調査エリアE[国頭村]
約30年前に10個体程度が自生していたという情報をもとに探索したが、クニガミトンボソウを確認できなかった(図-2-2-1〜2-2-3)。当該地点は渓流帯で、標高が106m、風当たりが弱く、日当りは中陰、土壌は湿っている環境であった。周辺10㎡内の植生は、高木層及び亜高木層、低木層が出現せず、草本層ではクニガミサンショウヅルが優先していた(草丈10cm前後,植被率30%)。渓流植物はクニガミサンショウヅル1種のみ出現した。本地点から約20mは離れた渓岸でイタジイ等の倒木、及び崩壊した斜面が見られた。


  • 図-2-2-1 クニガミトンボソウの約30年前の自生地(倒木多数)


  • 図-2-2-2 クニガミトンボソウの約30年前の自生地


  • 図-2-2-3 約30年前の自生地(林冠ギャップあり)

(3)調査エリアF[大宜味村]
クニガミトンボソウを確認できなかった。渓流植物は7種(クニガミサンショウヅル、ツルカタヒバ、チャボチヂミザサ、ケラマツツジ、オキナワヒメナキリ、ヒメタカノハウラボシ、サイゴクホングウシダ)出現した。

(4)調査エリアG[大宜味村]
約20年前に10個体程度が自生していたという情報をもとに2地点で探索したが、クニガミトンボソウを確認できなかった。2地点ともに渓流帯の岩場で、風当たりが弱く、日当りは中陰、土壌は湿っている環境であった。1地点は標高が103mで、周辺15㎡内の植生は、高木層及び亜高木層、低木層が出現せず、草本層ではヘラシダが優先していた(草丈20cm前後,植被率20%)。渓流植物は6種(サイゴクホングウシダ、リュウキュウツワブキ、ナガバハグマ、オキナワヒメナキリ、ヒメタムラソウ、ヒメタカノハウラボシ)出現した。別の1地点では標高が97mで、周辺15㎡内の植生は、高木層及び亜高木層、低木層が出現せず、草本層ではサイゴクホングウシダが優先していた(草丈10cm前後,植被率30%)。渓流植物は7種(サイゴクホングウシダ、クニガミサンショウヅル、オキナワヒメナキリ、ヒメタムラソウ、チャボチヂミザサ、ヒメミゾシダ、リュウキュウツワブキ)出現した。尚、本地点の川下はダム湖と通じており、その周囲は伐採跡地であった。

4.考察及び保護方策について

1)オキナワセッコク

生育状況等の調査を実施した結果、オキナワセッコクが出現する生育立地は、標高が300m〜400m前後で雲霧のかかりやすい場所あったこと、斜面中部や谷間の平地、鞍部(山の尾根の凹んだ所)であったこと、自生地周囲の林分が幹枯れや枝枯れした樹木、枯木、及び伐木が少なく、倒木によるギャップの少ない林冠が閉じた比較的安定した林分であった。よって、本種の生育立地は、空中湿度が高く、気温が山麓や低地に比べ低い場所、季節風や台風等の影響を受けにくい場所であることが見受けられた。
生育環境においては、全調査エリアにおいて共通し、樹高が8m〜12m前後、胸高直径が40cm〜60cm前後の比較的大きなサイズの樹木が生育する自然林であり、かつ、やんばる地域の森林を構成する主要な樹木(イタジイ、イスノキ、オキナワウラジロガシ等)が着生樹であった。着生する位置は、地上から着生樹の樹高の1/2〜2/3の高さに多く見られたことから、オキナワセッコクは直射日光や直接的な強風などを好まない傾向が見られた。
以上のことより、オキナワセッコクの保護にあたっては、標高が300m〜400m前後の雲霧がかかりやすい山地の斜面中部や谷間の平地、鞍部といった生育立地だけでなく、その周辺の森林においても、自然林(特にやんばる地域の森林を構成する主要な樹木)の伐採を極力抑え、生育地の保護を図ることが重要である。
また、今回の調査結果、複数の調査エリアで多くの集団及び個体が確認できたことから、遺伝的多様性が高い可能性があり、環境が変化した場合でも、その変化に適応して生存するための遺伝子が種内にあることが考えられる。

2)クニガミトンボソウ

生育状況等の調査を実施した結果、クニガミトンボソウが出現する生育立地は、かつての自生地も含め標高が100m〜150m前後の中流域あったこと、渓流帯(流れが速いあるいは洪水時に水没する河川)の岩場であったこと、自生地周囲の林分が枯木や伐木が少なく、倒木によるギャップの少ない林冠が閉じた比較的安定した林分であった。よって、本種の生育立地は、空中湿度が高く、冷涼な場所、土砂流出、斜面の崩壊等の自然撹乱を受けにくい場所であることが見受けられた。
生育環境においては、調査エリアDの2地点において共通し、風当たりが弱く、日当りは中陰、土湿は湿った場所であり、サイゴクホングウシダが優先し、典型的な渓流植物が6種程度生育する岩場であった。一方で、生育個体を確認できなかった調査エリアEでは、かつての自生地周辺の渓岸でイタジイ等の倒木及び崩壊した斜面が見られたこと、調査エリアGでは、かつての自生地の川下はダム湖になっており周囲が伐採跡地であることから、環境の変化により消失した可能性があると考えられた。
以上のことより、クニガミトンボソウの保護にあたっては、標高が100m〜150m前後の河川の中流域だけでなく、上流や下流も含め河川全域において自然林の伐採及び開発を極力抑え、生育地の保護を図ることが重要である。
また、今回の調査結果、4河川のうち1河川でしか見つからず、かつ確認できた2地点とも10個体未満と個体数が非常に少なかったことから、本種は沖縄島内全域おいて遺伝的多様性が低い可能性があり、環境の変化に適応できず、沖縄島産の絶滅危惧IA類のなかでも特に種の絶滅を招くおそれがあることが懸念される。今後は、ゲノム解析の結果等を踏まえ、必要に応じて生息域外保全や野生復帰など検討が求められる。

5.謝辞

本調査にご協力、ご指導いただいた、横田昌嗣氏(琉球大学理学部 教授)、比嘉清文氏(元宜野湾市立普天間中学校 教諭)、石川伊智子氏(琉球大学理学部)、大山章氏(株式会社琉球ホテルリゾートオクマ)、渡邊たづ子氏、熊井健氏に深く感謝を申し上げます。

6.参考資料

  • 環境庁自然環境局野生生物課(編),2015.改訂・レッドデータブック2014-日本の絶滅のおそれのある野生生物8 植物I(維管束植物)-.㈱ぎょうせい,東京,646pp
  • 沖縄県文化環境部自然保護課(編),2006.改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物(菌類編・植物編).沖縄県文化環境部自然保護課,沖縄県那覇,510pp

*1植物研究室

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