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ホーム総合研究センター平成27年度 事業年報 > 3)園芸品種作出に関する調査(リュウキュウベンケイ・コウトウシュウカイドウ)

沖縄美ら島財団総合研究センター[美ら島研究センター]

亜熱帯性植物の調査研究

3)園芸品種作出に関する調査(リュウキュウベンケイ・コウトウシュウカイドウ)

佐藤 裕之*1・端山 武*1・松原 和美*1・宮里 政智*1

1.本研究の背景

沖縄県は日本の南西に位置し、亜熱帯で島嶼という特殊環境であるため他県に比べて植物の多様性が高く、また、日本では沖縄県にしか確認されていない貴重な植物も多い。沖縄県に自生する植物の約4割は絶滅の危機に瀕しており、その保全に向けた研究が急務である。絶滅危惧種を保全する上でその植物の有用価値を見出すことは, 保全活動を推進する動機づけとして重要となる(佐藤ほか, 2015)。リュウキュウベンケイとコウトウシュウカイドウは国内では沖縄県にのみ自生する植物であり、前者は野生絶滅、後者は絶滅危惧Ⅱ類に指定されている (環境庁自然環境局野生生物課, 2015)。リュウキュウベンケイの属するカランコエ属とコウトウシュウカイドウの属するベゴニア属は花卉園芸植物として重要な分類群であり、多くの原種が交配育種により園芸化されてきた。しかし、リュウキュウベンケイとコウトウシュウカイドウは園芸植物として未利用の種である。本研究ではリュウキュウベンケイとコウトウシュウカイドウの保全に向け、交配育種素材としての有用性を調査した。

2.リュウキュウベンケイの交配育種利用に向けた取り組み

1)栽培実証試験

以前までの研究で、リュウケイベンケイを用いた交配育種の結果、切花向けの優良品種が6品種(ちゅららシリーズ)選抜された。ちゅららシリーズは新規の花卉園芸植物であり、生育特性に関する十分な知見を得られていないのが現状である。平成26年度には栽培方法の違いが生育に及ぼす影響を調査し、生育特性に関する基礎的なデータを得た。平成27年度はこの結果を元に、沖縄県園芸振興課と連携を図りながら県内の花卉産業に関係する7団体協力のもと、栽培実証試験を実施した。
栽培実証試験に当たり、7月上旬に協力団体を集めた検討会を実施し、営利生産化に向けた戦略策定と品種特性や栽培に関する情報共有等を行った。その後、沖縄美ら島財団にて生産された‘ちゅららダブル’等優良品種(6品種)合計約1万本を協力団体へ分配した。栽培実証試験は主に季咲きの切花生産技術構築を目的として各団体異なる栽培条件で取り組んだが、沖縄県立農業大学校様では鉢物化に向けた調査、沖縄県農業研究センター様では電照栽培試験(開花調整技術の構築)も併せて実施した。11月下旬には出荷を前に再度検討会を実施し、実証圃にて生育状況の確認や出荷調整方法の検討等を行った。


  • 写真-1 実証圃における検討会の様子(11月)


  • 写真-2 実証圃におけるちゅららの栽培風景(11月)

栽培実証試験の結果、県内で一般的に行われるキク栽培の技術を応用し、ちゅららシリーズの生産が可能であると示唆された。また、キクと異なり病害虫の発生が少ないことから、薬剤散布の回数を少なくした省力的な栽培が可能であると考えられた。さらに、電照栽培試験により開花期をずらすことに成功し、将来的には需要の高い時期に合わせて出荷することが可能になると期待された。

2)市場調査

栽培実証試験で試作された切花については、沖縄県農業協同組合様、沖縄県花卉園芸農業協同組合様を通じて東京の大田市場へ出荷し、株式会社大田花き様協力のもと、市場調査を実施した。調査は仲卸業者と買参人(専門店)10人を対象にちゅららのサンプルを提供し、指定の質問に返答をもらうアンケート方式を行った。
質問は6個設定し、その結果は以下の通りであった。
回答者の情報として、男性4名、女性6名。仲卸3件、専門店など4件、その他(デザイナー等)3件。店の場所は大田区、世田谷区、千代田区、中央区、港区、川崎市などであった。
「ちゅららを使ってみたいと思いましたか?その理由は?」という質問に対しては、日持ちの良さ等を理由に8割が使ってみたいと回答があった。残り2割の意見は消極的であり、その理由として「他に代用できそうなものがある。」「今回のサンプルが咲き過ぎている。」というものだった。
「どんな使い方をしてみたいですか?」という質問に対しては、アレンジメントで使用したいという回答が50%で一番多く、「枝分かれしている草姿が、アレンジや小さなブーケを作るのに合っている。」との意見があった。
「草姿、切り前について要望がありますか?」という質問に対しては、「丈が長く、花と茎の間に空間があるので切り分けやすくアレンジに使いやすい。」「短め20-30cmくらいでも使いやすい。」「もう少し葉が小さくてもよい。」「花は咲いていると輸送中に花弁が傷つきそうなので、蕾の状態が良い。」「一番花が咲いたくらいが良い。」「一重なら切前がゆるい。」等の意見があった。
「希望の出荷時期はありますか?」という質問に対しては、季咲と重なる年末から年明けにかけてが良いとする意見と、葉痛みが無ければ、夏場(他の花の花もちが悪い時期)の出荷を求める声が多い結果となった。
「1本当たりの単価(仕入れ値)は、いくらくらいが妥当だと思いますか?」という質問に対しては、80~150円まで意見が分かれ、平均して110円であった。
その他の意見として、「7-8分咲かせないと売れない。」「色数が幾つかあるとよい。」「足が長く、上部に花まとってボリュームあるよい。」「単品では売りにくいが、アレンジやブーケ使えそう。」といった意見があった。

3)育種

(1)交配育種
平成26年度、沖縄美ら島財団 熱帯植物試験圃場にて栽培、収穫された‘ちゅららダブル’等の切花を試験的に東京へ送付したところ、花首の曲がりが確認された。花首の曲がりについては栽培方法により改善可能であるが、品種の高い切花を安定的生産するためには花茎の強い品種を選抜する必要があると推察された。
そこで、過去に選抜落ちした実生の特性を再調査した結果、強い花茎をもつ1品種が選抜された。本品種は特性調査を行い、今後、品種登録を行う予定である。
また、さらなる花色の充実と優良形質の付与を目的として、新たに育種親を約20品種選出し、本格的な交配育種を実施した。その結果、数百粒の種子が得られた。

(2)花色変異系統育成に向けた花卉培養
沖縄美ら島財団 熱帯植物試験圃場にて試験栽培していた‘ちゅららダブルピンク2’より花色が部分的に白色化する枝変わりが発生した。この変異部より植物体を再生させることができれば、今まで交配育種で作出することができなかった白色品種を獲得できると期待される。そこで、花弁等を用い無菌条件下にて花器培養を実施した。その結果、植物体の再生に成功し、いくつかの幼苗が得られた。今後は再生した個体の花色を確認すると共に、効率的な花卉培養技術を構築するための試験を実施する。

4)総括

栽培実証試験の結果、ちゅららシリーズはキク栽培の技術を応用することで生産可能であることが示唆された。既存の設備や技術を生かせるため、具体的な生産方法を記したマニュアルができれば早期に普及可能な品目である。
一方、市場調査の結果、収穫後の課題が明らかとなった。市場調査では切前に関する指摘が多く、最高の状態の花を送付することができなかったことが推察された。大田花き様からは「切前が固すぎると開花までに時間を要する為、ある程度咲かせた方が良いと思われる。但し、花ガラや花痛みには注意が必要」との意見を頂いた。特に一重咲きの品種は花ガラが目立ちやすく、輸送中の痛みや品種差等を考慮し、切前について検討していく必要がある。
今回の市場出荷はキクで使われている梱包資材を用いた。ちゅららシリーズはキクに比べ丈が短いことから、余分なスペースが生じた。また、枝が横に張ることから、キクほど多くの本数を詰め込むことがでなかった。沖縄から切花を出荷する場合、送料に多くのコストがかかるためこれを抑えることが不可欠である。ちゅららシリーズにあった梱包資材の開発や、水なしで花もちする特徴を生かして船便での輸送を検討をするなど、流通に伴う調査も併せて実施していきたい。
今後は市場の意見を反映しつつ、栽培実証試験を継続することで高品質、低コストの生産方法を構築し、マニュアル化を目指す。また、継続的に新品種を供給できる体制を構築する。さらに、生産や流通等に伴うコストを精査し、経営収支の把握を行うことでちゅららシリーズを沖縄県の戦略品目として確立していきたい。


  • 写真-3 枝変わりが発生した‛ちゅららダブルピンク2

2.コウトウシュウカイドウの交配育種利用に向けた取り組み

以前までの研究で、コウトウシュウカイドウとBegonia chloroneura、B.nigritarumを交配させることで葉色の多様化に成功した。これらの交配種は観葉植物として広くに流通するレックスベゴニアに近い葉色をもち、かつ、レックスベゴニアにはない耐暑性をもつことが確認されている。レックスベゴニアは葉色の多様性のみならず、葉の形態や大きさに多様性があるのが特徴である。コウトウシュウカイドウの育種においても、こうした特徴の付与は課題の一つであるため、H27年度は葉の大きさが異なる品種の作出について検証を行った。
小型品種を中心に育種親を選定し、交配を行った結果、葉の大きさが5cm程度の小型の品種の作出に成功した。これらの小型品種は葉色の多様性が維持され、観賞価値が高いものとなった。今後も育種を継続することで、営利生産が可能な品種の作出を目指す。


  • 写真-4 コウトウシュウカイドウを用いた小型品種(Bar.=5cm)

参考文献

  • 佐藤裕之, 三位正洋, 泉川康博, 沖縄の絶滅危惧植物リュウキュウベンケイを用いた園芸品種作出と保全日本植物園協会誌 (50), 126-129, 2015-11
  • 環境庁自然環境局野生生物課希少種保全推進室, レッドデータブック2014 日本の絶滅のおそれのある野生生物8 植物I(維管束植物), 2015.

謝辞

ちゅららシリーズの普及に当たり、ご尽力いただいた沖縄県農林水産部園芸振興課様、栽培実証試験にご協力いただいた、沖縄県農業研究センター様、沖縄県花卉園芸農業協同組合様、沖縄県農業協同組合様、沖縄県立農業大学校様、本部町役場様、読谷村役場様、宮平聰様、金城政秀様、知念一義様
市場調査にご協力いただいた株式会社大田花き様に厚く御礼申し上げます。


*1植物研究室

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