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ホーム総合研究センター平成29年度 事業年報 > 1)やんばる地域希少植物生育状況調査Ⅲ

沖縄美ら島財団総合研究センター[美ら島研究センター]

亜熱帯性植物の調査研究

1)やんばる地域希少植物生育状況調査Ⅲ

阿部篤志*1

1. はじめに

本調査は、環境省那覇自然環境事務所事業「平成29年度やんばる地域希少植物生育状況調査業務」の一環で、平成27、28年度に引き続き、(一財)沖縄美ら島財団総合研究センターが受託した事業である。
沖縄島北部のやんばる地域の固有種であるオキナワセッコクとクニガミトンボソウは、平成 14 年に絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法) に基づく国内希少野生動植物種に指定され、採取や譲渡等の規制により保全が図られている。本調査は、両種の生育状況を把握し、それらの結果を踏まえ両種の保護施策検討のための基礎資料を作成することを目的として、平成27年度より有識者ヒアリング及びやんばる地域(米軍施設内を除く)における生育状況調査を実施してきた。平成29年度は、平成28年12月に返還された北部訓練場返還地における生育状況を把握することを目的として、生息状況調査を実施し報告した。

2.調査概要

平成29年10月から平成30年3月の間に15回調査を実施した。調査対象種は、環境省版及び沖縄県版レッドデータブックにおいて絶滅危惧IA類のオキナワセッコク(Dendrobium okinawense)、クニガミトンボソウ(Platanthera sonoharai)とした。調査箇所は、各種報告書、空中写真解析図、並びに有識者ヒアリングをもとに選定した。調査方法は、生育状況を把握するために、位置情報、地形、斜面方位、個体数、着生樹種、着生樹の樹高及び胸高直径、着生高、植生、開花結実状況、生育範囲、水面から生育位置までの高さ、生態写真を記録した。併せて、ゲノム解析に供するためのサンプル採取を行った。

3.調査結果の概要及び今後の保護方策

1)オキナワセッコク

3.調査結果の概要及び今後の保護方策
写真-1 オキナワセッコクが生育する自然林

3.調査結果の概要及び今後の保護方策
写真-2 オキナワセッコクの開花株

生育立地は、空中湿度が高い状態が保たれ、気温が比較的冷涼な場所、季節風や台風等の影響を受けにくい場所と見受けられた(写真-1,2)。生育環境は、比較的大きなサイズの老齢木が生育する自然林であり、沖縄島北部亜熱帯照葉樹林を構成する主要な樹木(イタジイ、オキナワウラジロガシ、イスノキ、イジュ、ハゼノキ等)が着生樹であった着生部位は、着生樹の根本から幹の頂部までの根本から1/2〜2/3の高さに多く見られたことから、本種は直射日光や直接的な強風などを好まない傾向が見られた。
また、北部訓練場返還地(今年度の調査エリア)で多くの集団及び個体が確認できたことから遺伝的多様性が高い可能性があり、環境が変化した場合でもその変化に適応して生存するための遺伝子が種内にあることが考えられる。齢構成については、実生苗、幼株、成株のいずれのステージにおいても複数個体を確認できたことから、前述の比較的安定した林分内においては齢構成が安定しており、仮に一時的な撹乱を受けても、本来の齢別生存率と齢別出生率が回復すれば、比較的短期間のうちに安定した齢構成に戻ることが考えられる。

以上のことより、オキナワセッコクの保護にあたっては、比較的大きなサイズの老齢木が生育する自然林で、かつ雲霧がかかりやすい山地頂上付近及び斜面、並びに渓流及び源流域の川岸といった、安定した自然環境を有する生育立地をコアゾーンとして保護を図るとともに、人為的または自然的な撹乱による影響を緩衝する周囲の森林(バッファゾーン)においても、伐採や開発行為を極力抑え生育地の保護を図ることが重要である。

2)クニガミトンボソウ

2)クニガミトンボソウ
写真-3 クニガミトンボソウが生育する渓流帯

2)クニガミトンボソウ
写真-4 クニガミトンボソウの結実株

2)クニガミトンボソウ
写真-5 外来種アメリカハマグルマの繁茂状況

生育立地は、空中湿度が高く、冷涼な場所、瀬と淵がはっきりしている渓流帯、土砂流出や斜面の崩壊等の自然撹乱を受けにくい場所と見受けられた。生育環境は、風当たりが弱く、日当りは中陰〜陰、土湿は湿った環境であり、サイゴクホングウシダやヒメタムラソウが優占し、渓流植物が4~6種程度生育する岩場であった(写真-3,4)。
また、今回の調査より、南アメリカ北部原産のアメリカハマグルマ(Sphagneticola trilobata)が確認された(写真-5)。本種は、匍匐しながら生育範囲を拡げる多年生草本である。生長が旺盛で、かつ生育環境に対し適応能力が高く、葉茎や根茎の断片から発根し栄養繁殖ができるほど繁殖力の強い特性がある。そのため、在来植物の生育に大きな影響を与える侵略的な外来種である。
以上のことより、クニガミトンボソウの保護にあたっては、河川の中流域の瀬と淵がはっきりした渓流帯の安定した自然環境を有する生育立地をコアゾーンとして保護を図りつつ、上流域や下流域も含めた河川全域、及びバッファゾーンにおいても、伐採や開発行為を極力抑え生育地の保護を図るとともに、侵略的な外来植物種の防除・駆除を徹底することが重要である。
さらに、今回の調査結果と平成27、28年度当該業務の結果より、現時点で本種が自生している可能性が高い6河川のうち2河川でしか見つかっておらず、かつ確認できた2河川ともに各集団で10個体未満と個体数が非常に少なかった。そのことから本種は沖縄島内全域おいて遺伝的多様性が低い可能性があり、環境の変化に適応できず、沖縄島産の絶滅危惧IA類のなかでも特に種の絶滅を招くおそれがあることが懸念される。今後は、ゲノム解析の結果等を反映させ、必要に応じて生息域外保全や野生復帰など検討が求められる。


*1植物研究室

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