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ホーム総合研究センター平成28年度 事業年報 > 3)西表島植物誌編纂事業

沖縄美ら島財団総合研究センター[美ら島研究センター]

亜熱帯性植物の調査研究

3)西表島植物誌編纂事業

赤井賢成*1

1.はじめに

西表島では世界自然遺産登録に向けてほぼ全島が国立公園化されるなど、生物多様性保全に向けた取り組みは進展しつつある。しかしながら、その基本情報となる生物目録は、維管束植物に限れば、琉球植物誌は1976年から、植物目録は1997年以降更新されていない。近年、台湾や中国の植物誌が改定されたこともあり、八重山諸島に生育する植物の分類学的位置を再確認しなければならないものも多い。そこで、今後5か年をかけて、琉球大学、国立科学博物館などと連携して文献調査、標本データの収集や現地調査を進めると共に、過去に当該地域で採集された標本の再同定を行い、西表島の植物相の現状と変遷を研究する。研究完了後には「西表島植物誌」の編纂をめざす。
本報では、2016年4月から2017年3月にかけて西表島で実施した現地調査で確認された西表島新産と考えられる維管束植物について報告する。なお、希少植物の自生地の地名については盗掘の危険性に考慮し、公表は控える。本報で使用する学名、科名および和名は米倉(2012)に、調査方法は赤井(2016)に準拠した。

2.結果

これまでに、過去における調査頻度が少ない二次的自然の場所(農地、市街地、牧場、沿道等)で4回の概査を行い、320種類1,080点の標本を採集した。西表島新産と考えられる維管束植物としては、以下の6種類が確認された。

1)イバラモ属sp.(トチカガミ科)

Najas sp.
島内3地区のため池、排水路、水田で合計約1,000個体を確認した(図1)。現地で採取した生株を持ち帰り、開花結実に至るまで栽培を行ったところ、相当数結実したが、結局、雄花の存在を確認することはできなかった。種子表面に横長の模様があり、トリゲモあるいはオオトリゲモのいずれかと判断されるが、両者の区別には雄蕊の葯室の数を確認する必要があるため、ここではイバラモ属sp.として報告する。なお、本種がトリゲモの場合でもオオトリゲモの場合でも、西表島新産となる。オオトリゲモは現時点で沖縄県RDBには掲載されていないが、次回の改定で沖縄県RDBに掲載が望まれる(オオトリゲモは石垣島で採集記録がある(角野康郎著、「日本水草図鑑」、文一総合出版、1994)。

2)ホシクサ(ホシクサ科)

Eriocaulon cinereum R.Br.
島内1地区の水田で合計約200個体を確認した(図2)。本種は沖縄県RDBには掲載されていないが、次回の改定で掲載される可能性が高い。

3)ミスミイ(カヤツリグサ科)

Eleocharis acutangula (Roxb.) Schult.
島内2地区の水田および休耕田で合計約1,000個体を確認した(図3)。
・環境省RL:絶滅危惧IB類(EN)
・沖縄県RDB:絶滅危惧Ⅱ類(VU)

4)オキナワカルカヤ(イネ科)

Apluda mutica L.
島内1地区の放棄水田で合計約50個体を確認した(図4)。

5)ヒレタゴボウ(アカバナ科)

Ludwigia decurrens Walter
別名アメリカミズキンバイ。北米原産の外来植物である。島内1地区の水田、休耕田および放棄水田で合計約数千個体を確認した(図5)。本種が西表島に産することは複数のウェブサイトに掲載されていたが、既往文献に掲載されていないため、ここでは西表島新産の植物として報告しておく。

6)ホソバノウナギツカミ(タデ科)

Persicaria praetermissa (Hook.f.) H.Hara
・沖縄県RDB:準絶滅危惧(NT)
島内1地区の水田に隣接する土水路で各20個体を確認した(図6)。既存資料に本種の西表島における分布情報は掲載されていないことから(島袋1997、沖縄県2006)、西表島新産になる可能性がある。与那国島産と同様に内地のホソバウナギツカミに比べて葉柄が長く(赤井2016)、分類学的な位置づけについて再検討を行う必要がある。

  • 図-1 イバラモ属sp.

    図-1 イバラモ属sp.

  • 図-2 ホシクサ

    図-2 ホシクサ

  • 図-3 ミスミイ

    図-3 ミスミイ

  • 図-4 オキナワカルカヤ

    図-4 オキナワカルカヤ

  • 図-5 ヒレタゴボウ

    図-5 ヒレタゴボウ

  • 図-6 ホソバノウナギツカミ

    図-6 ホソバノウナギツカミ

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3.今後の研究について

西表島においては、未踏査の場所も多いため、今後も継続的に現地調査を進めていく所存であり、島内に研究拠点施設も整備していく。また、5年間という短期間で西表島植物誌を編纂するためには、過去に採集された標本の再同定を効率的に進める必要がある。そのためには、膨大な数の標本を借用する必要があるため、国内の代表的な植物標本庫に標本の取り出し、発送、返送後の冷凍燻蒸、配架を担うスタッフを配置することを検討している。

4.謝辞

本調査を実施するにあたり、琉球大学理学部教授の横田昌嗣氏、琉球大学熱帯生物圏研究センター西表研究施設教授の梶田忠氏、准教授の内貴章世氏、京都大学総合博物館准教授の永益英敏氏、東京大学総合研究博物館准教授の池田博氏には、西表島の植物相に係る多くの情報と調査の進め方について助言を賜った。また、琉球大学大学院理工学研究科の院生の新垣昇吾氏には、西表島の植物相調査に関する資料の提供を受けた。さらに、琉球大学熱帯生物圏研究センター西表研究施設技術員の梶田結衣氏、吉田隆太氏には、現地調査の補助を担っていただいた。以上方々に、心から深くお礼を申し上げる。



*1植物研究室

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